第55話

「やめてっ⋯離して!」


「でも、そうしたらひなが泣くから」


「かい、り⋯!」


「しやんだけ」


「っ、痛っ⋯」



ガリっと、海吏が私の耳に噛み付く。




「いつもこんなん思ってるの、ひな、知らんやろ?」


また、ボソッと耳元で呟かれ。




「ひなが俺の事見てくれたら、全部、解決すんのに」


「っ⋯」


「不安やで。不安に決まってるやん。だってひなが俺の事好きにならんから」


「かいり⋯」


「ちゃうよ、魁輝やろ? 魁輝って呼びや」


「やめて、やめてよ⋯」


「じゃあひなもクズを好きなんやめろよ!!」



その時、ぐるんと、また視界が反転する。



私の目元から海吏の手が離れ、私は馬乗りになっている海吏を見上げた。



海吏の顔を見て困惑する私は、何も言い返せなかった。



ポタ⋯⋯と、私の体のどこかに、海吏の涙が落ちてくる。

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