コスメチック

早河遼

幕間1

「まったく、美優ってばまたメソメソして。そこに座られると邪魔なんだけど……って、どうしたのよその痣!」

「……お姉ちゃんには関係ない」

「バッカじゃないの? こんな時まで意地張ってどうするのよ。母さんには……いやもうこの際言ってなくてもどうでもいいわ。痣見せて」

「いっ……!」

「うわ、けっこう腫れてる。ちゃんと保健室で診てもらった?」

「……診てもらってない。帰り道でこけただけだから」

「バカね。そんなウソであたしを騙せるとでも思った? ……違うでしょ。クラスの誰かにぶたれたんでしょ? 転んだにしては打ち所がおかしいし……あんたが虐められてるの知ってるし」

「……うるさい」

「こいつはしばらく残っちゃうわね……あんた、あたしに似て顔だけはいいんだから、大事にしなきゃいけないのに」

「そんなの、ウソだよ」

「は? 何がウソだって言うのよ」

「だって、お姉ちゃんと同じなの……背の高さぐらいだし」

「ちょっと待って。それ、さりげなくディスってない?」

「それにわたし……醜いからいじめられてるわけだし。クラスの子も言ってた。わたしのこと、呪いの人形だって。ほっぺたの痣も、こっちの方が相応しいからって──」

「ああ、もう。いつまでもウジウジ言ってんじゃないわよ。呪いの人形だとか言われるのはそういうところよ。……そいつらの言うこと、当てにしなくていいわ。ただあんたのこと妬んでるだけだから」

「うるさいなぁ。お姉ちゃんなんかに解るはずないよ」

「はいはい、何とでも言いなさいな。……うん、まあでもこれぐらいだったら上手く隠せるかな。美優、今すぐ傷口洗って氷で冷やしなさい。お化粧で痣を隠すやり方、教えてあげるから」

「ちょっ……何言ってるのさ。そんなの学校で許されるわけ──」

「言い訳禁止。これは命令よ? ……大体ねぇ、あんたお化粧のこと、ただのオシャレだと勘違いしてるでしょ? せっかくスマホ買ってもらったんだから、SNSでコスメの情報収集しなさいよ」

「そんなのわたしの勝手でしょ? それにオシャレじゃないからって、学校にして来ていい理由にはならないじゃん」

「話を最後まで聞きなさい。いい? 学校でお化粧してきて先生にばれるなんて、そんなの三流がやることなの。オシャレをするにしても、大事なのは如何に自然体を残したままキレイになれるか。覚えておきなさい」

「……何それ。わけわかんないよ」

「今は無理に理解する必要ないわよ。……いいからあたしに任せて。お化粧だってばれないようにその痣、隠してあげるから」

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