雨が降る日

第86話

薫が目を覚ましたと連絡が入って俺は急いで病室に向かった。



「薫っ!」



俺の最愛の人は様子がいつもと違った。

目は暗く濁っていた。昔のあの時のような目で、今にも消えてしまいそうだった。



「………」



無表情で、ただどこかをずっと眺めていた。



「俺のこと、もう覚えてないよな」



「………」



あんだけ、薫に諦めるなとか言ってたけどこれが現実だよな。

薫は何を話しかけても、こっちを見ることも、笑うことも、返事をすることもなかった。



「くっそ…」



壁に寄りかかりながらずるずると座り込んだ。


薫に何もしてやれないのがもどかしくてしょうがない。

俺があいつのそばにいればこうはならなかったのかもしれない。

ずっと思っていた気持ちを伝えたのに、こんなことってあるかよ。


任せろなんて言ったけど、薫に直接何もしてやれない。記憶喪失は俺じゃ治せない。

薬を作ったやつを見つけ出すことしかできない、見つけ出しても、薫の記憶が戻るわけでもないのに。



――俺の気持ちを表しているかのように大粒の雨が降っていた。

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