第57話

「……思い出せたみたいだね。俺…いや、僕の名前はわかるかな?」



「…柊零斗。怜央の弟でしょ」



「ふふっ、あたりだよ。全部思い出したのかな」



全部、全部思い出した。リーダーはこいつとグルで、怜央を連れ去った張本人じゃないか。

この数年、私はそれを忘れて呑気にリーダーと協力していたのか。



「怜央はどこにいるの。怜央を返して」



「あいつの名前を僕の前で言わないでくれるかな。薫は僕のものでしょ、僕の名前だけ呼んでればいいんだよ」



「誰があなたの名前を呼ぶわけ?怜央を殺そうとした奴の名前を呼ぶなんて絶対嫌よ」



ここから早く逃げないと、リーダ―のところに行けば怜央に会えるはず。

私が記憶が戻っていないふりをすれば、リーダーとの接触も容易いだろう。



「なんで?なんで怜央なの。なんで僕を選ばないの?あいつより僕のほうが完璧なのに」



柊は思いつめたような顔で必死に聞いてくる。

それが、なんとなく幼い顔にも見えた。



「私は完璧さを求めてない。……怜央だから。あの時出会えたのが怜央だったから、私が好きなのは怜央なのよ」



「……こんなことはしたくなかったけど。ごめんね、薫。僕のものがあいつのものであることは許せないんだ」



ガシャン



「はっ?まって、この手錠外してよ!」



両手に手錠をかけられて、つながった鎖が柱につけられた。

逃げられない、どうしたらいい。どうすればいいの。



「無理、絶対外さない。僕のものにならないなら無理やりやるしかないじゃん」



柊は胸ポケットから小さな瓶を取り出した。



「何…その小瓶」



「記憶をなくす錠剤が入ってるんだ。これさえ飲めば怜央のことなんか忘れて、ここでずっと僕と暮らせるよ」



「そんなの飲むわけ無いでしょ!」



柊が私の口に指を入れて無理やり薬を入れようとする。



「んー!んんっ」



だめ、このままじゃ飲み込んじゃう。怜央のこと忘れちゃう、忘れたくないのに。まだ会えていないのに。



柊が水を飲ませてきて、そのまま私は薬を飲みこんでしまった。

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