第55話

「……なんでそんなこと聞くの?」



「この前、怜央のこと知ってた口ぶりだったし。それに、私が怜央を探していることも知っていたじゃない」



カチャ



柊が持っていたカップを机に置いた。



「……」



「なっ、なに?ちょ、近づかないで!」



何かがおかしい。柊の様子がいつもと違う。

私の静止の声を無視して、近づいてくる。



これは逃げないとやばい。そう感じて椅子から立ち上がろうとした。



ガタンッ



その瞬間、立ち上がろうとした私を押さえて、柊が逃げ道をふさぐように手を置いた。



「記憶を失ったのに、なんで怜央のことは覚えてるんだよ」



「…え?」



「あの時怜央を殺していれば、あいつのことなんか忘れて俺のものだったのに」



柊は何を言ってるの…?怜央を殺していればってどういうこと?



「殺しておけばよかった。いつまであいつは俺の邪魔をするんだよ」



「ね、ねぇ。さっきから何を言ってるの…?」



「もう待ってられない」



震えが止まらない。


何かを思い出してしまいそうで。


何かが湧き上がってくるようで。


思い出してはいけない何かを。


でも、思い出さなきゃいけないとも思う何かが。





―――――俺は、柊怜央の弟だよ。思い出せるかな、薫。

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