酒浸りのろくでなしオッサン、絶対に働かないと言ったら妹に村を追い出されたので旅に出る。
巌本ムン
第1酒:働かず酒浸っていたら村を追い出された。
実に大陸中を巻き込み1000年続いた泥沼の大戦が終わった。
果てしないと思われた戦いが終わり喜びに包まれる。
しかし戦後処理に100年掛かるといわれており。
未だ大陸の中央から離れている辺境や群島は終戦を知らず。
更に戦後のドサクサに紛れて勢力を拡大させようという不届き者も居た。
だが戦争は終わったのだ。
それは素直に喜べることである。どう終わったのかはさておいて。
戦後1年。
青年ヘンリーはボロボロの姿で村に帰ってきた。
それは戦争の凄まじさと悲惨さを語っていた。
彼は言った。
「俺はしばらく働かない」
そして妹に報奨金だと袋を渡す。
袋の中には大量の銅貨と銀貨と金貨が入っていた。
驚いて問い質すが、ヘンリーは悪い金じゃないとしか言わなかった。
妹は親代わりの村長とシスターに相談する。
報奨金はヘンリーの許可を得て一部を村の為に使うことにした。
おかげで冬の餓死者が無くなった。
そして妹と村長とシスターは話し合ってヘンリーを気遣う。
したいようにすればいいと言ってくれた。
しばらく働きたくなければそれでもいい。金があるというリアル事情もあった。
ヘンリーは感謝した。
皆に温かく迎え入れられて見守ってくれる。こんなに嬉しいことはない。
戦争を終わら、終わって本当に良かった。そう彼は涙した。
そして10年後。
「ウエェェェエイィィ……ヒック……帰ったぞぉ」
酒瓶を抱えて酔い酔っているのはヘンリーだ。
赤ら顔でフラフラしながら家のドアを開ける。
「……けぇたぞぉ……」
呻いて飲んで呻く。
「ひっく、帰ったぞ」
「……」
彼の妹がやってくる。
「おう。おにいさまが、帰ったぞぉ」
「ねえ。いつまでそうしているの」
「あ?」
「いつまで働かないでいるの」
「それはなぁ……それは、もちろん。一生だぁ……」
「一生働かないでいられると思ってんの?」
「その為に金はあんだろ」
10年使っても一部を村の為に使っても報奨金はまだまだあった。
「金があるからっていつまでも働かないでもいいと思ってんの?」
「そうだ。いいんだ。いいか俺は絶対に働かない。絶対にだ」
「わかったわ」
「分かってくれたか」
「ええ―――だったら村から出て行けこのろくでなしっっっ!!」
おもいっきり妹に蹴り飛ばされ、ヘンリーは外に転がった。
「な、なにしやがるんだっ酒が!」
ひゅんっと何かがヘンリーの頬を掠った。
切れて血が出る。振り返ると何か後ろの木に刺さっていた。
包丁だ。
「二度と顔を見せないで」
そして報奨金の入った袋を放り投げる。
「お、おい」
「見せたら次は刺す」
殺意を向けて妹はドアを閉めた。鍵をかける。
「…………あーああ、ったくしゃあねえな」
ヘンリーは立ち上がる。報奨金と転がった酒瓶を手にした。
「すっかり酔いが冷めちまったぜ」
10年まったく働かず酒浸りの日々。
当然と言えば当然の仕打ちである。
こうしてヘンリーは家を村を追い出された。
仕方なく旅をすることになる。
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