第92話

電話を切った後、首と肩の間からスマホを抜き取ってポケットにしまう。


洋服をしまうのを再開して手早く片付けた。



夕飯の準備を簡単に済ませると、テーブルに並べて食事を取った。


いつもカフェのまかないで済ませてるから、すこし寂しい気もする。


賑やかな中で誰かと食べるから。


一人の食事がこんなにも味気無かったなんてね?



知らない間に、どうやら私は一人じゃない生活に随分と慣れてしまってたみたいだな。




「一人は結構慣れてたんだけどな...」


ママの入院が長くなってからは、食事はいつも一人だった。



伯母さんの食事を作っても一緒に食べるなんて事は無かったし。


自室に運んで一人で食べてたもん。



まぁ、あの人達とご飯なんて食べたら不味くなるに決まってるしね。


離れで暮らすことも一人で居ることも、自然と慣れたのに、今じゃ寂しいと思うんだもんね。



それだけ、恵美ちゃんやスタッフの皆の影響力は凄いって事ね。


突然入った私を皆は可愛がってくれる。


一番年下なのもあるかも知れないけど、守られて大切にしてくれてるのはよく分かるんだ。



本当に有り難いと思ってる。



居場所をくれた恵美ちゃん。


私を仲間だと言ってくれる皆。


今じゃ彼女達は私の大切な人達だ。



この街を選んで良かった。


漫喫で恵美ちゃんに会えて良かった。


心からそう思うよ。





夕飯を済ませて、お風呂に入るとロフトに敷いた布団に入った。


この部屋はロフト付き。


ベッドを買おうと思ってたんだけど、折角だからロフトを、利用することにしたんだ。


小さな天窓から星を見ながら眠るのも悪くない。


ちょっと、太陽の角度によっては眩しい時もあるけど、そんな時はボタン一つでブラインドを下ろすこともできるから。



カフェのバイトも、この部屋での生活もかなり充実してる。



彼らの存在が無ければね?


夕方に会ったシルバーアッシュをぼんやりと思い出す。



神様、お願いです、彼らと関わらなくて済むように。


神頼みをして目を閉じた。

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