第61話
雨の日の昨日とは違って今日は忙しい。
たいちゃんも熱から復活してきて、進ちゃんと私と三人でホールを回してる。
恵美ちゃんは親戚に用事が有るらしく、今日の厨房颯斗君が仕切ってる。
「五番テーブルオーダー上がった」
いつも寡黙な颯斗君の声が厨房から飛ぶ。
彼は厨房に入ると人が変わるのだ。
「は~い」
一番近くに居た私が駆け寄る。
五番テーブルの注文伝票にチェックを入れて、商品をトレーに乗せて運んでいく。
「お待たせしました....こちらが..」
商品名を伝えてテーブルに熱々のそれを置く。
「ありがとう」
と言われ、
「ごゆっくりお召し上がりください」
一礼してからその場を離れた。
その後も同じ事を繰り返し、客を捌いていく。
夕方のこの時間帯は客足が良くて回転率もいい。
忙しい分だけ達成感も出てくる。
「お~い、誰か居るか?」
「どうしました?颯斗さん」
カウンターに厨房を覗き込む。
さすがの私も彼にだけは敬語を使ってしまう。
他の三人には堅苦しいから普通に話して欲しいと言われ敬語は無くなったけど。
この彼は特別な空気を持って居るので、あまり踏み込めない。
ま、私も皆にまだ一線引いてしまっているから、偉そうには言えないんだけど。
「あ、暁か...」
私を見て困ったように眉を下げる。
「私じゃ不味いですか?」
と首を傾げたら、
「ああ、配達なんだ」
と言われてホールを見た。
だけど、進ちゃんは女の子のお客さんを接客中だし、たいちゃんはお友達が数人来店していてそちらを相手していた。
「私行きますよ?近くですよね」
ここの皆は危ないと私を配達から排除してくれてる。
だけど、私も同じ従業員だし、女の子ってだけで特別扱いは嫌だ。
「あ...まぁ。5軒先の黒いビルだ」
困ったように眉を下げる颯斗君。
「じゃ、私行きますよ」
「でもなぁ...あぶねぇ」
って言うので、
「冷めちゃうと勿体ないです。颯斗さんのキャップ貸してくださいよ」
カウンターの向こうの颯斗さんに手を伸ばすと彼の被ってたキャップを取った。
髪を後ろで一つに束ねるとクルクルっとして頭の天辺に纏めるとその上にキャップを被った。
「これなら、男の子でしょ?」
鍔を深めにして、ピースする。
「分かった。頼むわ。それ羽織ってけよ」
投げられたパーカー。
「了解です」
と受け取って袖を通す。
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