第59話

今日は平日の水曜日、客足はそれほど激しくない。


週の中日はこんなもん。



暁ちゃんと二人でホールを切り盛りできるので助かる。


本当は三時から入るはずだったたいちゃんが風邪で休みなんだよねぇ。




暁ちゃんとは反対側のテーブルから拭いていく。


テーブルの上の調味料の補充もかねて。



20席ほどの店内はそんなに広くないのですぐ終わる。



「今日は暇だね?」


二人でカウンター方に歩きながら声をかける。



「ん。そうだね」


雨降ってきたしね?と窓の外へと視線を向けた暁ちゃん。



「あ~確かに。雨の日は客足は遠退くもんね」


ついさっき振りだした雨は少し激しくなっていた。



「今のうちになにか飲む?」


とキッチンから声をかけてくれた恵美ちゃん。



「あ、じゃあ私入れます」


と暁ちゃんはカウンターの向こうへと回る。



暁ちゃんにとって恵美ちゃんは尊敬する人第一位。


だから、恵美ちゃんの言うことは絶対なんだ。




「あ、そう?」


「はい。恵美ちゃんは何が良いですか?」


恵美ちゃんには俺達に向けない本物の笑顔を向けるんだよね、彼女。

 

俺達には一線引いてるのも寂しいけれど、それが彼女の自分の守り方なんだと思うんだ。



「じゃ、アメリカン」


と言った恵美ちゃんに、



「了解です」


と微笑んでサイフォンをセットする暁ちゃん。



「紘君は何が良い?」


カウンター越しに俺を見る。



「あ、じゃあ俺、カプチーノでラテアート描いてよ」


とお願いしてみる。


暁ちゃんは手先が器用でたまにお客様にラテアートを出してあげてる。


女の子には大好評なんだ。



「良いけど。何を書くの?」


と言われ、


「...暁ちゃんの愛」


と言ったら、無言で一瞥されただけだった。



「.....」


しかも、その瞳冷たすぎるから。



「ごめんごめん。嘘です」


泣きそうに謝ると、


「じゃ、クマね」


と背を向けられた。



うん、超クール。





少ししてカウンターに置かれた三つのカップ。



一つは恵美ちゃんのアメリカン。


もう一つは俺のラテアート...クマ。


最後は暁ちゃんのミルクティー。



三人でカウンターに並んで珈琲タイムを取る。



「ん、美味しい。暁ちゃんは珈琲の入れ方上手よね」


満足そうな恵美ちゃんと、



「これからも精進します」


と嬉しそうな暁ちゃん。



そんな二人を盗見みしながら、俺はクマが壊れないようにカップを傾けた。




うん、今日も平和だ。





 ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

紘君side

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