第43話

捕まる前にさっさと帰らなきゃ。


テストを終えて、後片付けを急ぐ。



チャイムが鳴った瞬間に教室を出ようと心に決める。


千里には伝えてあるから、彼女もなんとか頑張ってくれるはず。



昨日の帰りみたいに及川君に捕まってたまるもんですか。


告白以来、やたらと話し掛けてくる及川君。


昨日はとうとう一緒に買えろと私達に付いてきたんだよ。



ほんっと、迷惑。


千里が言ってたみたいにサッカー部の彼は、かなり人気があるのか、学校を出るまで痛い視線に晒された。


帰宅途中の生徒からも、ギョッとした目で見られたんだよ。


途中で千里が寄る所があるって、機転を聞かせてくれたから、その場で彼と別れられたけど。


あのまま、一緒にいたらマンションまで付いてくる勢いだった。



家を知られるなんて、本当に冗談じゃないわ。





周囲のカリカリとシャープペンシルの動く音を聞きながら、私は教室の正面に掛けられた時計を見る。


得意な課目で良かったと、やり終えて裏返したプリントに目を落とした。



今日を乗りきれば、一緒に帰ろうだなんて誘われなくなるはず。


テストが終われば、及川君だってクラブが始まるし。



あんな光の中で生きてるような及川君が、私を好きだなんて物好きすぎるよ。


好きか? 嫌いか? って聞かれたら、迷わず何とも思ってないって答える。



私にとって彼は恋愛対象にはなりえない。


側にいて苦しくなるような相手は選ばないんだよ、普通。



私に似合うのは、同じ様に黒い何かを持ってる人じゃないかなぁ~多分ね。


フッと頭を過ったのは、随分前に助けた彼の事。



野獣のように暗く光るアンバーな瞳を思い出す。


見惚れるような容姿も。



あ・・・あれもダメだな。


危険すぎる。


血濡れの狼なんて、近付くだけで捕食されちゃうわ。



ないない・・・と首を左右に振った。


私も命は欲しいから。



生きることに意味を見出だせないのに、命が惜しいなんて笑えるけど。


何の為に生きてるのか分からなくても、私はきっとこの世に止まり続けるんだ。



結局のところ、私は何も出来ない弱虫なんだと思う。

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