第36話

シャワーを浴びて部屋に戻れば、女の姿は既に無く。


言われた通りに出ていったのだと分かる。


顔も名前も覚えてねぇ女に、もちろん何にも思うことはねぇ。



あからさまに乱れたベッドは、さっきまでの情事を物語っていて生々しい。


欲を吐き出したはずなのに、何もすっきりしてない自分に笑えた。



タオルで髪を拭きながら、ベッドの側に落ちていたズボンを拾い上げる。


ベッドに使い終えたタオルを投げ捨てて、ズボンを履くとシャツを羽織ってボタンを止めていく。



「酷くなっただけかよ」


ずきずきと頭の奥で鈍痛がする。



溜まった欲を吐き出せば、全てが治まると思ったのに、何の意味も無かったとこに辟易した。



どうすれば、このモヤモヤを吹き飛ばせんだ。


「マジでうぜぇ」


生乾きの髪をかきむしった。



あぁ~胸くそ悪りぃ。


この部屋の空気も、今の自分も。



この苛立ちを解消してるのは、何なんだよ。


解消する術も分からないまま、俺は情事の後が残る部屋を後にした。










クラブ内は俺の苛立ちなんて関係なく賑わってる。


明るく笑う連中に、さらに苛立ちを悪化させながらソファーにどかりと座った。



「おや、浮かない顔をしてどうしたんですか?」


俺がすっきりした顔で出てくると思っていた秋道は、驚いた顔で聞く。



「余計に酷くなった。鈍痛までしてきやがる」


こめかみを押さえてそう言えば、


「そうですか・・・仕方ないですね。モヤモヤの原因を取り除くのは発散だけでは無理だと言うことですよ」


秋道は落ち着いた様相で言う。



モヤモヤの原因・・・。


そんなの響に決まってる。


取り除くって、どうすんだよ。



あいつを一瞬でも忘れたくて女を抱いても消えやしねぇのに。



「頭の中から消えねぇのをどうすりゃいいんだ」


苛立たしさをまぎらわせる様にくわえた煙草に火を着けた。



「自分の心と向き合ってみるべきですね。消えない意味を晴成が気付かなければ、何も解決しないと思いますよ」


そう言って秋道は穏やかに微笑んだ。


何かを悟っているその表情に、俺のモヤッとした思いが膨れ上がる。



「何か分かってるなら教えろよ」


不満の声を上げた俺に、


「こればかりは人に言われて気付いても意味がないんですよ」


と言う秋道は、俺の中にある何かに確実に気づいている。



俺自身が、気付くこと・・・それはいったい何だって言うんだよ。





ーendー

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