第10話

「あっ」


フラフラと歩いていた人影は、もう少しでベンチに辿り着きそうな辺りで、前のめりに倒れ込む。


あの人、大丈夫なの?


このチャンスを逃さずに公園から出ていくべきだと思うのに、私の足はゆっくりと倒れた人へと向かっていった。



危ない人だったら蹴り飛ばしてダッシュで逃げる。


買い物袋を持ってない方の手をギュッと握り締めた。



様子を見るだけ、目の前で倒れた人がのちのち亡くなってたとか聞くのは後味が悪いもん。


生存確認したら帰る。


絶対帰る。



そろりそろりと近づく間も人影はピクリとも動かない。


マジで死んでるとか無いよね?



距離が縮まる毎に生臭い鉄の臭いがキツくなる。


怪我をしてるんだろうか。


それならそれで、救急車呼ばなきゃな。



面倒な事には関わりたくないと思う反面、私は引き返す事がどうしても出来なかった。




「あの・・・大丈夫ですか?」


そっと声をかける。


男の子らしい影に声をかけるも反応はない。


もう少し近づいて、気付く。


倒れ込んだ彼の白いスカジャンが血に染まっている事に。



うわっ、本気で不味いやつだよね。


見下ろした彼の姿は、血濡れの白いスカジャンに、学生服らしい黒いスラックス。


そのスラックスも所々泥と血で薄汚れている。



リンチ? それとも喧嘩?


どっちにしても、危ない人なのは間違いなさそうだな。


面倒だけど・・・このまま立ち去るのも寝覚め悪いよなぁ。



しゃがみこんで男の子の顔を覗き込んだ。


血がついてるけど、随分と整った顔をしている事が分かる。


月明かりに照らされて浮き上がって見えるくすんだ茶色い髪、目を瞑ってても長いと分かる睫毛に、それに色っぽい唇。


不良っていう部類の人かもしれないな。





「このままじゃヤバイな。救急車呼ばないと」


パーカーのポケットからスマホを取り出して119に掛けようと画面をタップした途端に、伸びてきた手に手首を掴まれた。


ギョッと目を見開いて、手首を掴んだ相手を見る。



「よ、呼ぶな・・・救急車は・・・不味い」


目を開けた男の子が息苦しそうに言う。


「だ、大丈夫なの? 血だらけだけど」


狼の様なアンバーな瞳に見据えられて、動揺しながらもそう聞き返した。

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