竜虎対決とパーティー

第80話

樹の会社訪問の日は思いの外あっさりと決まった。

三村さんから連絡を受け、樹に伝えたのはつい昨日の事。


「何を差し置いても行くに決まってるでしょ」

と言ってくれた樹の言葉は記憶に新しい。

良い友達を持ったと本当に思う。



隣で退屈そうにあくびをしてる伊藤先輩を横目に、私はぼんやりとロビーを見ていた。

キングの誕生日ウイークも終わり、うちの会社は通常営業に戻った。


浮足立ってた社員達も、今では職務に勤しんでる。

ロビーには訪問客と商談中の営業の人達が大勢いて賑わっている。

定期的に掃除の行われる床はピカピカに磨かれていて、天井のLED照明の光を反射していた。


それにしても、初めて会社に来た時も思ったけど、建物の作りが豪華なんだよね。

会社の顔だからロビーに力を入れてるらしいよ、と伊藤先輩は言ってたけど。


前に勤めてい鉄工所とは月とスッポンだな、なんて考えて思わず笑みが漏れた。

まず、あの会社にロビーなんてものは、無かったな。



「瞳依、今日の仕事帰りにご飯食べに行かない」

「あ、すみません。今日、友達が来るんですよ」

「へぇ、珍しいね」

「会社見学したいらしくて」

誤魔化す様に苦笑いする。


「会社見学って、何者なのよ」

と笑う伊藤先輩に、

「過保護な保護者みたいなものです。だから、私の職場が気になるらしいんですよ」

肩を竦めた。

嘘は言ってない。


「まぁ、瞳依って、ちょっと危なっかしい所あるものね」

「私としては、そうでもないんですけどね? 色々と心配されるんですよね」

「瞳依ってしっかりしてそうに見えて、何処か抜けてるものね」

さり気なくディスって来た。

あながち外れてないので、言い返せないのが辛い。



「私としては頑張ってるつもりなんですけど」

「それは無理でしょ。瞳依のは天然だもの」

アハハと豪快に笑った伊藤先輩。

ちょ、先輩! 目立ってますって。


「で、その友達はいつ頃来るの?」

「私の終業時間に合わせて来ると思うんですけど」

「あ、じゃあ会えるかも」

ワクワクしたような表情になった伊藤先輩に、小さく息をついた。


「樹に会っても大して面白くも無いですよ」

「瞳依の保護者がどんなのか気になるじゃない」

野次馬だ、ここに野次馬がいる。


「はぁ、そうですか?」

「うん、そ」

まぁ、良いけどね。

樹は自慢の友達だもん。

スタイルが良くて美人さんでしっかり者で、私の自慢だ。

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