第65話

『あ〜もう、瞳依ちゃんはつれないな』

笑いながらそんな事を言うキング。


「これが私の通常営業です」

『ククク、良いよね、本当』

何が良いのか全く分かりませんけどね。


「そうですか」

『うん。あ、呼ばれたからそろそろ行くね』

電話の向こうでキングを呼ぶ女性の声が聞こえた。


「はい。誕生日楽しんでくださいね」

『ま、ほどぼとにね』

あんまり楽しそうな声じゃなかった様な感じがするのは気のせいかな。

通話を終えて、スマホを見つめる。


いくら誕生日とは言え、何人も相手にするのは疲れるのかもね。

今日は2時間刻みで予約が入ってるから、24時まで6人かぁ。

まぁ、うん、疲れそう。

始まったばかりのお誕生日デートを楽しんでくださいね、心でそう祈って席を立った。


買い物ついでに誕生日プレゼントも一応買っておこうかな。 

休み明けに催促されそうだしね。


でも、キングにプレゼントなんて何が良いのかな。

色んな物を色んな人に貰うだろうし、それにキングの事だから欲しい物は自分で簡単に買えそうだしね。

私の買える物などたかだか知れてる。


弱ったな、男の人にプレゼントする物なんて浮かばないや。

自慢じゃないが、生まれてこの方、男の人にプレゼントをした事なんて無いんだよね。

弱ったな、本当。


気難しくなった表情のまま会計を済ませ外に出た途端熱気に包まれた。

うわぁ、さらに暑くなってるよ。

昼を過ぎて少し傾いた太陽がジリジリと肌に照り付ける。

額にじわりと滲んだ汗を手の甲で拭い歩き出した。


とにかく今日の目的を果たそう。

夏服を少し買って、靴も買って、後はキングのプレゼントも。

最後のが一番手こずりそうだなと苦笑いを浮かべ歩道を行き交う雑踏に紛れ込んだ。

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