FILE7. ストーカーVS彼氏

第84話

夢を見た。




中学時代の私が泣いている夢。


何故泣いているのだろう?


ああ、そうか、いいところまでいっていた本命事務所のオーディションに落ちたのだ。


あれだけ頑張って練習をして沢山勉強もしたのに。


何年もかけて努力して、何年も繰り返しチャレンジして、一番うまくやれたと思った今回の結果もこれ。



大好きだったテレビを消した。


好きな女優が載っている雑誌を捨てた。


女優を目指す内容の夢見がちなふわふわ漫画も全部捨てた。


ドラマなんてもう観ないと意地を張った。



(私なんて、大嫌い)



どれだけ頑張ったって夢を叶えられない私には、才能なんて欠片もないんだ。



「俺は好きだよ!!」



突然大声でそう言われ、驚いてびくりと体が揺れた。


下を向いていた私が顔を上げる。



「今の俺がいるのは、ゆきちゃんとの出会いがあったからだよ」



ぼやけて見える。でも琉偉だと分かる。



「一つの夢が叶わなかったからって、そこで人生終わりじゃない。俺はずっといつまでもゆきちゃんのことを応援してるから。俺の大好きなゆきちゃんならいつか自分の力で立ち上がるって信じてるから」



(こいつ、夢の中でまで私を励ますのか)



そう思った時、目が覚めた。


涙が枕を濡らしていた。


夢の中のことが現実に影響したのは初めてだ。



玲美が隣のベッドでいびきをかいている。


私は涙を拭きながら上体を起こした。



(……前、向こう。ここで終わりじゃない)



外はもう、わずかに明るくなっている。

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