第51話

『…』


自分から帰りに誘ったくせに


あれから何も言わない弘人


バス停に続く並木道


砂を踏む


二人の足音


『今日、廊下で告られたの?』


「あぁ。」


『いつの間にそんなモテるようになったの。』


「俺、あいつの名前も知らねぇ。」


名前も知らないあの子に


あんなに無邪気な笑顔を向ける弘人


その場をうまく立ち回るすべ


弘人は知っている


それはまるで


偽物の自分を作り上げたみたいに


『…亡くなったその子も、告白されて付き合ったの?』


「いや。俺から告白した。」


『そっか。』


手探りに


『どんな子だった?』


少しずつ


「お前に似てた。」


あなたのことを


「身長も、声も、好きなものも。」


5年間に起きたことを


「どっかで、お前とあいつを重ねて見てた。」


知りたい…


「最低だろ。」


『…』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る