自殺者

 その日、私は予備校から帰っている途中だった。丸くて大きな月は全天を照らし、自転車をこぐ私に心強い明るさをくれた。

 あともう少しで家に着く、そのとき。

 橋から身を乗りだす少女が視界に入り、私は慌ててブレーキをかけたのだった。

 けたたましい音をたてて自転車が止まる。私は自転車を横倒しにして、少女に駆け寄った。

「危ないですよ!」

 少女は私の声に気だるそうに足を下ろして振り返った。

 私は少女の顔を見て目を見開いた。少女も私を認めて目を見張る。

 少女は山名瞳子――私のどうしても超えられない壁、だった。

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