第36話

「……イズミだろ?」




大好きだった低い声に名前を呼ばれて、泣いてその胸に飛び込みたくなる…



忘れられてなかった。

それだけで…




ーーこのこみ上げてくる熱はなんだろう。




それでもあたしは向きを変え、止めたタクシーに素早く乗り込んだ。



夢の中にいるように、体が動いた。




「っ早く出して!」




泣きそうな顔で叫ぶあたしに困惑の顔をしながらも、すぐにタクシーは走り出す。




「イズミっ!!」




壁一枚、隔たりがあっても聴こえてくるものは防ぎようがない。




呆然としていた祐樹が慌ててタクシーを呼び止めようとするのをルームミラーで見つめた。




しかしタクシーは止まらず、そのままスピードを上げた。

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