選択

 あれから数十年の時が経った。

 夫は随分前に先立ち、娘達は家庭を持って日々幸せそうに過ごしている。

 私はまさに今、そんな娘達に見守られながら、天国へ旅立つ時を迎えていた。

 今際の際に私の目の前に現れたのは、あの日信じないと決意した神様とやららしい。

 神様は私にこう言った。

 お前には二つの道がある。

 一つは、もう一度人として生まれ変わり、再び人生を歩む道。

 もう一つは、二度と人には戻れないがメアリーの傍でずっと離れず、目に見えない存在となる道。

 どちらかを選べと言われた。

 私は、迷わなかった。

 メアリーの死に際に居合わせられなかった事。

 それを悔やまなかった事は無かった。

 メアリーの事を忘れた日は、一日たりとも無かった。

 だから私は選ぶ。

 人としての一生を振り返り、満足だ、と思いながら。

 私は人としての道を歩まない事を選んだ。

 メアリーは、新しい肉体を得て、既に生まれ変わっていた。

 愛らしい目の、アジア人だ。

 メアリーはもう、メアリーではない。

 私ももう、ローズではない。

 では、これからの私は何と名乗るべきか。

 それももう決まっていた。

 メアリーアン。

 私は今日から、メアリーアン――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る