第81話

確かに最初に聞こえてきたのは、私の知る明るい声だった。

…だけど目の前には、元気がなく痩せ細ってしまった綾ちゃんがいる。



「………!!…?」



…腕にはリスカの跡のような、鋭利な物で切られた傷があり、手には包帯がぐるぐるに巻かれていた。



「…あ、綾ちゃん……」



とりあえず呼び掛けてみたけど、返事はない。

寝ているのか、起きているのか。

少し判断に困るような、そんな状態。



「綾音は…一年前のあの日からもうずっとこんな調子で、たまに思い出したかのように普通に会話できたかと思えば、こうしてまたしばらく何にも反応しなくなったりするんだ」


「…何が……あったのかな…」


「綾音…拉致されているときに、犯人に拷問されたみたいで……」


「………あ、綾ちゃん…」


「余程痛くて、苦しくて、怖い思いをしたんだろう…。そのせいでこんな風になってしまったみたいなんだ……」



言葉を詰まらせ、綾音の頭を撫でながら話すお父さん。

綾ちゃんはお父さんに撫でられながら、気持ち良さそうに頭を傾けているように見えた。


…その穏やかな表情を見るのが、逆に辛い…。



「綾ちゃん、ごめん…ごめんね。助けてあげれなかったし、何もしてあげれなくて…本当にごめんね…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る