第22話 覚悟

「そんな……意味がわかりません。どうしてそんなに私を……いくら目覚めさせてしまった責任感とはいえ、あまりにもご自分を犠牲にしすぎています」


 呆然としながら言うローラに、ヴェルデは少しだけ厳しい顔つきになった。


「前にもお伝えしましたが、あなたと共に生きることは私にとって責任感ではありませんし、義務感でもありません。あなたと一緒にいることが、あなたの居場所を造ることが、私が心から望むことなのですよ」


 真剣な目でじっとローラを見つめるヴェルデを、ローラは不安げに見つめ返した。


「そんな、ヴェルデ様がそこまで私を思ってくださる理由が全くわかりません、隣国の、百年も眠り続けていた私のような人間を、なぜ?」

「それは……いずれ分かる時が来ます。とにかく、私があなたと共に生きていきたいと願うのは、私自身からわき上がるものです。ローラ様が思っているようなことではありません。それだけは、ちゃんとわかってほしい」


 そう言って、ヴェルデはぐっとローラに近寄り、ローラの頬にそっと手を添える。その距離は今にも唇が触れてしまいそうな距離で、ローラは驚きのあまり目を背けた。心臓はバクバクと高鳴り、顔は火が出てしまいそうなほど熱い。


「ローラ様、目を逸らさないで、私を……俺を見て」


 取り繕うのをやめ、ヴェルデは本来の口調でローラに話しかける。急なギャップにローラの心臓は口から飛び出そうになった。

 すり、と頬に添えられた手が優しく頬を撫でる。その仕草に、ローラは思わず身じろいだ。そんなローラを、ヴェルデは目を細めて見つめると、静かに微笑んだ。


「……なーんて、ね。今日はここまでにしておきましょう。あまりやりすぎるとローラ様に嫌われてしまいますし、それは困る」


 すっと頬から手を離してヴェルデはローラから離れた。ヴェルデの顔を見ると、嬉しそうに笑っている。


「か、揶揄ったのですか?!」

「違いますよ、揶揄ってなどいません。ですが、急すぎるのは嫌でしょう?少しずつ、でも確実に距離を詰めようと思いますので、覚悟していてくださいね」


 爆弾発言をされて、ローラは思わず目眩がする。


(か、覚悟って、今のようなことが、また、起こるということなの?)


 もしそうであれば心臓がもたない。ローラは思わずヴェルデから距離を取ろうとするが、その分ヴェルデは近寄って距離を縮める。


「いずれ俺の本気をちゃんとわからせてあげますから。あなたのことは逃しはしませんよ、絶対に」


 そう言って、ヴェルデは妖艶に微笑んだ。




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