第6話 提案
どのくらい泣いていただろうか。ヴェルデの腕の中で泣きわめいていたローラはようやく落ち着きを取り戻したようで静かになっていく。そんなローラの顔を、ヴェルデは静かにのぞき込んだ。
「ローラ様、大丈夫ですか?」
「……ええ、だいぶ落ち着きました。すっかりあなたの優しさに甘えてしまいましたね。でも、おかげで心が軽くなりました。本当にありがとうございます」
そう言ってふんわりと微笑むと、ヴェルデと目が合う。そのあまりの近さに、そういえばヴェルデに抱きしめられていたのだったとローラは気づき、思わず赤面して体を離そうとしたが、ヴェルデは両手をローラの肩に置いて静かに話し始めた。
「ローラ様、ひとつご提案があります。……私と一緒に、サイレーン国へ来ませんか」
「……はい?」
ヴェルデの突然の提案にローラはきょとんとするが、ヴェルデは真面目な顔のままだ。
「あなたはこの時代にご自分が生きる意味はないと言っていました。恐らくこの国にいても辛いだけでしょう。それなら、いっそのこと私と一緒に我が国へ来て心機一転、新しい生活をしてみませんか。この国にい続けるよりもローラ様にとって良いと思うのです」
突然のことにローラは目をぱちくりさせ、首をかしげる。この美しい青年は一体何を言っているのだろうか?
「……私があなたの国にあなたと一緒に行くことに、あなたに何のメリットがあるのでしょう?私のような人間を自国へ連れて行くことは、あなたにとってはむしろマイナスになると思いますよ。それに、メイナード殿下がそれを許すとも思えませんが」
ローラの言葉に、ヴェルデはふむ、とひとつうなずいたがすぐに笑顔になった。
「そうですね、メリットが無いとお思いになるかもしれませんが、全く無いわけではありません。あなたは百年も眠り続けていたが全く老化していません。それに、私はあなたを目覚めさせることはできましたが、あなたにかかった魔法がどのような魔法で、なぜあなたが眠り続けることになったのか、完全に解明できたわけではないのです。ですが、魔術師としてどうしてもその原理が知りたい。あなた自身を使ってそれを解明したいのです。そのために、一緒に来て解明の手伝いをしていただきたい」
ヴェルデは優しく微笑みながらさくさくと言葉を並べていく。
「それから、ローラ様には私の婚約者になっていただきたいのです」
「は、ええ?」
婚約者、という言葉を聞いた瞬間、ローラは素っ頓狂な声を上げた。自分でもそんな声が出るとは思わなかったのだろう、驚き顔を赤らめて口を両手で塞ぐ。そんなローラを見て、ヴェルデは楽しそうにクスクスと笑った。
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