眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛

鳥花風星@12月3日電子書籍配信開始

本編

第1話 眠り続ける姫と筆頭魔術師

「エルヴィン様!危ないっ!」


 王子にドンッと体当たりをした姫に、魔法が直撃する。この先、百年眠り続けることになるその姫は、そのままその場に崩れ落ちた。




「眠り続ける姫、ですか?」


 サイレーン国の筆頭魔術師、ヴェルデは首をかしげながら隣国の第一王子、メイナードにそう尋ねた。


「あぁ、我が国には眠り姫と呼ばれる姫がいてね。隣国の筆頭魔術師である君ならもしかしたら起こす方法を知っているんじゃないかと思って」


 サイレーン国と隣国であるティアール国は同盟国であり、この日はサイレーン国の筆頭魔術師であるヴェルデがティアール国へメイナードの命で訪れていた。


「眠り姫は百年前、当時の第一王子の婚約者だったご令嬢だ。結婚式当日、王子へ向けられた魔法から王子をかばったんだ。運良く一命は取りとめたが、それ以来ずっと眠り続けている。当時は王子を救った功績を讃えられ、眠り続けたまま聖女として祀り上げられたようだ。その後、起きる気配は無く、その命を終わらせてあげようと試みた時代もあったようだが、眠り姫はどうやっても殺せなかったらしい」


 刃を向けても魔法で攻撃しても、姫には傷ひとつつかない。そのため、百年経った今でもずっと眠り続けているのだ。


「老化などはしていないのでしょうか?」

「全くしていない。若々しいまま、今でも眠り続けているよ」


 そう言って、メイナードは一つの部屋の前で足を止める。


「ここが眠り姫の部屋だ。どうする?入ってみるかい?」


 そう聞かれたヴェルデは少し悩んだ。眠り続けているとはいえ、隣国の、ましてや過去の王子の婚約者。すなわちこの国の妃殿下になるはずたった人でもある。自分が立ち入っていい場所ではないのではないかと思った。


「無理強いはしないよ。でも、僕としては君以外に姫を起こせる人間はいないんじゃないかと思っているんだ。この国でもたくさんの魔術師が姫を起こすために力を尽くしたけれど、姫は起きなかった。でも、規格外の魔術師と言われる君なら、もしかしたらと思ってね」


 ジッと美しい瞳でヴェルデを見つめるメイナード。その瞳には嘘偽りのない思いがあらわれていた。 同盟を結んで以降、メイナードとは良好な関係を築いて来たつもりだ。彼の期待に背くようなことはできればしたくない。それにメイナードからこの国に呼ばれた際の手紙には「頼みたいことがある」とだけしか書いていなかったが、恐らくはこのことが頼みたいことだったのだろう。


 実際、眠り続けているその人自体にも興味がある。一体、どんな魔法がかけられているのだろうか。


「……わかりました。お会いしてみます」

「ありがとう。恩に着るよ。もしも目覚めなかったとしても、気に病む必要はないからね」


 優しく微笑み、メイナードは目の前の扉をそっと開いた。


 部屋に入ると、部屋の真ん中に大きなベッドがある。メイナードに続いてベッドへ近づくと、一人の美しい女性が静かに眠っていた。


 明るいブラウンの長い髪の毛が窓から差し込む陽の光に照らされて輝いている。白い肌はきめ細やかで透き通るように美しい。まぶたは閉じられているが、そのまぶたが開かれた瞳は一体どんな色をしているのだろう。


 眠るその姿を見てヴェルデは思わず息をのんだ。


「美しいだろう。彼女の名前はローラ・ライラット。ずっとこうして百年も眠り続けているんだ。どうだろう、起こしてあげられそうかな?」


 メイナードに促されて、ヴェルデは静かにベッドのそばへ足を運ぶ。魔力を感知すると、姫にはやはり魔法がかかっていた。


「どうやら対象者を殺す目的で放たれた魔法のようですね。……この方の魔力が上回っていたために死には至らなかったようですが、魔力の影響変化で攻撃魔法が眠り魔法へと変換されてしまったようです」


 そう言ってヴェルデはメイナードをじっと見つめる。


「私であればこの方を起こすことは可能です。……ですが、本当によろしいのですか?隣国の一魔術師が、過去とはいえ、この国の妃殿下になるはずだった方を起こしてしまうなんて」


 同盟を結んでいるとはいえ、未だに相手の国を良く思わない人間は少なからずいるものだ。もし眠り姫を起こしてしまい、万が一両国の間に溝が生まれてしまうとすれば一大事だ。


「この国の第一王子として誰にも文句は言わせないよ。それにこの件については王にも許可を取ってある。できるのであれば一刻も早く眠り姫を起こしてあげたい」

「……わかりました。そういうことであればこちらとしてもやらざるを得ませんね」

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