第8話

村に着くのは明日の夕刻。というわけで、例の如く野宿となる。今日は森の中だ。ここも枯葉が少々落ち始めている。


 旅人が焚き火をするための炉があり、そこに火を起こして囲んでいた。リーリアの奴はさっきちょっと出てくるとか言って居なくなってる。


「んで? リーリアとはどれぐらい進んでるわけ?」

 問うて来たのはレン。にやにやとした笑顔。

 こいつは色恋沙汰が好きなのだ。


「だから、俺は何とも思っちゃいねぇよ!」

「……リル様、酷いです」

「おおぅっ!?」


 唐突に後ろからかかった声に振り向けば、リーリアが森から現れるところだった。手には――小鹿。

「……何だ? それ」

「お夕食です」


 言いながら、首筋にナイフの刺さった小鹿を引きずってくる。


「お前……昼間、命がどうとか言ってなかったか?」

「糧とするのは悪いことではありません。

 感謝の心を忘れなければいいんです」

 彼女は手馴れた手つきで鹿を捌き、火の周りに肉を並べる。


「あのな、保存食とか干し肉とかもあるんだが」

「新鮮なほうが美味しいですよ」


 あっさり、きっぱり、迷い無く言う。

 ――こいつの性格、なんとなく分かってきた。……ような気がする。


「う~ん、火の通りが遅いですねぇ……」

 呟くと、無詠唱で魔法を発動させ、肉を全部ミディアムにする。


「……お前な……」

「あ、レアの方がお好みでしたか?」

「リっちー、もうちょっと焼いて。あたしの」

「あ、はい」


「…………」

 何だかもう馬鹿馬鹿しくなって、俺は黙って肉を食った。



◇◆◇◆◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る