LeliantⅢ ~遠き我が麗しの姫~

副島桜姫

1,プリンセス・リーリアント

第1話

1、プリンセス・リーリアント



「ちょ……やめて下さい!」

 そんな声が聞こえたのは、俺が酒場兼食堂のカウンターで強めの酒を飲んでいる時だった。


 振り返ると、……やれやれ。

 大方何かの憂さ晴らしに酒を浴びて、女に絡みだしたんだろう。……ったく、昼間っから。


 面倒ごとは嫌いだが他に助ける奴がいないらしい。溜息をつきつつ、俺はそっちに向かった。


「おい、いい加減にしとけ。嫌がってるじゃねぇか」

 相手――二十前後の男三人――は、途端にこっちを振り返る。


「何だ、てめぇは?」

「そっちこそ何だ? 昼間っから人の迷惑も考えやがれ」

「んだとぉ!?」


 殴りかかってくる。……ふん、ど素人が。

 五秒でそいつらを叩き伏せた。


 カウンターに戻って酒の続きを愉しもうとした時、後ろから声がかかる。


「あの……ありがとうございました」

 振り返って初めて見て――俺は、溜息をつきそうになった。

 別に、溜息が出るほどの美人とかそういうのじゃない。……確かに可愛いけどな。


 ただ、これは絡んでくださいと言っているようなものだと思って。


 手入れの行き届いた長い銀髪。青い瞳。さっきも言ったがかなり可愛い。

 しかし何より特筆すべきは、その服装と雰囲気だろう。


 ……多分、貴族か大商人のお嬢様だ。服は本人は町娘風にしているつもりなんだろうが……それでもまだ『お嬢様です』と言わんばかり。育ちの良さは身体から滲み出ている。


「お強いんですね」

「大したことじゃないさ。

 あんた、こんな目に遭いたくなかったら、もうこんなとこ来るなよ」


「……あ……」

 彼女が何か言いかけるが、俺は無視してカウンターに戻る。


 ここは、帝都の一部と言えど貧民街と言われる場所。無論治安もそれなりに悪い。

 ここだって、馴染みの俺が言うのもなんだがかなりボロい。建物も備品もほぼ全部木造で、しかも古い。


「あの……」

 無視しているが彼女はしつこく声をかけてくる。


「私、リーリアと言います。あの、せめてお名前を……」

「名乗るほどのもんでもない」


 我ながら恥ずかしい台詞だと思うが、名乗ったらこっちの負けだ。願わくば、馴染みであるここのマスターがバラさないことを祈るのみだが。


 ――と。


「何だ? この騒ぎは!」


 兵士が酒場に乱入してきたのは、その時だった。



◇◆◇◆◇

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