第12話

「ここ、リュシーの家……なの?」

 恐る恐るという風に、リリアが尋ねる。白亜の宮殿、とでも言おうか。王都の中でも特に豪華な屋敷が並ぶ場所にあり、周りと比べても遜色ないどころか際立っている。


「家出先だ。帰りたくないからな」

 言いながら、リリアの手を乱暴に握って馬車から降りる。初老の男が待っていた。


「……俺の母さんの従兄弟だ」

 囁くように、言う。


「初めまして。リリア……えっと、リーリアント……」

「はい、存じ上げております」

 男は笑顔で、

「僭越ながら貴女様の後見人を務めることになりましたカズラールです。以後、お見知りおきを。

 お待ちしておりました。リュシオス様」


「陛下は?」

 早く済ませたい。その意思が強く現れた言葉だった。


「明日の朝に、とのお達しです。できれば今夜より……」


「行かんと伝えろ!」

 これ程苛立ったリュシオスを見るのは、リリアは初めてだった。彼に握られた手が、たまらなく痛い。


 その夜は、昨夜以上に彼女を呼び、決して離そうとしなかった。




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