第4話
「ねぇ、リュシー」
三日後。同じく馬車の向かい合わせに座り、リリアが声をかけてきた。だが、ここ数日の通り、リュシオスは何かのファイルから顔を上げず無視している。
「……リュシオス」
ぴくり。彼の目が、目だけが動いた。リリアを凝視している。
「分かった。リュシー」
目はファイルに戻った。
母と姉と彼女以外には、愛称で呼ばせない。そして、愛称以外で呼ばれたくはなかった。
この三日間でリリアは色々な事を理解していた。彼は何も言わないが、見ていれば分かる。彼女の姿が自分の視界から消えないようにしているのも、一人で眠れないのも。淋しいのだ。彼は。
強引に彼女を側に置いているが、それ以上は何もしない。まるで草食動物だと、リリアは思っていた。
そして――傲慢でかなり我侭であることも事実。頼むよりも命令することが慣れているようだ。やはり身分のある人物なのか。
――結局、名前以外は教えてもらってないな……。
馬車の振動に揺られ外を眺めつつ、最初の日に質問攻めにあったことを思い出しながらリリアは胸中で呟く。
「リリア」
口を開いたリュシオスは、見ていたファイルを畳んでいた。
「次の町に寄る。一緒に来い」
まだ日は高かった。
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