Vildesia’s Memento ―― Winter Comes around Again ――  戦と死の神の忘れ形見(旧)

桜梨 -Ohri-

プロローグ

第1話

Vildesia’s Memento ―― Winter Comes around Again ――

戦と死の神ヴィルデジアの忘れ形見



 プロローグ




 ただ――空間がある。


 闇の中。いや、闇すらない。ただ、昏い空間。

 その中に、彼はいた。


 真紅の長い髪が、ただ、自らの力の余波で靡く。


 動かなかった。

 何もない。――いや、なくなった。


 彼が、なくした。全て。


 十五の王。最後の世界。その全てを、消した。悉く。


 残ったのは、彼だけ。


 虚無のみが漂うその空間。しかし、何かが彼に触れた。

 慌てて振り返ると、空間を漂っていたのであろう。セピアの石の使われた耳飾が1組、氷の球に封じられ、浮かんでいた。


「――……ジア」

 掠れた呟きが、洩れる。

「――ヴィルデジアぁあッ!!」


 いつの間にか叫び、力を放っていた。耳飾を手に。


 紅い光が収束し、耳飾に宿る。


 いつしか、セピアのそれは、対照色に変わっていた。そして――

 封じられていた姿が、蘇る。


 蒼と呼べる範疇に入った、ふわふわとした髪。蒼い瞳。蒼と白を基調にした衣装。


 虚ろに、自分の存在すら理解できていない彼女を、ただ彼は抱き締めた。


 ――慈主神。そして後継者。彼は、その名を彼女に与えた。


 その時――全ては始まった。




◆◇◆◇◆

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