第66話

「ほら、入れ」


 着替えさせたが、真っ青な顔はどうしようもない。

 敢えて触れずに、弟をまだ入れたことのない部屋へ導く。


 自身の住まうエリシア邸は勿論、丁鳩邸も出入り自由だった弟を決して入れなかった部屋だ。


 弟は、今入れられた部屋がどこかも分かっていないのだろう。


「ごめんな……」


 そっと、弟の顔に手をやり、自分のほうに向けると、

「子どもが完全にできないようには、できないんだ」


「…………」


 真っ青な顔で無表情にしている弟は、聞いているのかも分からない。

 そんな弟に向けることができた精一杯の笑顔は……苦笑いだった。


 ――笑って安心させることも……できやしない。


 丁鳩邸の魔国の医者が既に待っていた。


「……悲鳴、好きなだけ上げろ。

 そのほうが楽だ」


 何も分かっていない弟を医者に引き渡し……そのまま椅子に待機した。

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