第45話

「流石に今日はティーズだらけだね」


 自分もティーズの大きな花束を持ち、鈴華の手を引いてゆっくりと歩く。


 歩きながら、墓のひとつひとつにティーズを一輪ずつ置き、首を深く垂れる。


 もう夜も更け、招待客は皆帰った。

 侍女たちも宴の後片付けに忙しいのと、ファムータルが人払いをしたのもあって姿がない。


 ――墓地を占有しちゃった……ごめんなさい。


 晩夏の名月――とは言うが、本当にこの時期の月は心に響く。


 淡い黄のドレスを着た彼女は、ファムータルの横顔をちらちらと盗み見ていた。

 先程の公人としての顔と、今の顔をしている人物が同一人物だとはとても思えない。


 月明りで良かったと、そっと彼女は胸を撫でおろした。


「……お久しぶりです。母様」

 最後、一番奥の墓に辿り着くと、残っていたティーズを全て捧げる。


 ファムータルの誕生日――すなわち、ここに眠る人々の命日だ。

 母をはじめ、母や――赤子だったファムータルを庇って亡くなった人々がこの墓地に眠っている。


 墓の前でこの一年間のことを口にしつつ――ファムータルは心中で母に願っていた。


 ――雪鈴のことも、よろしくお願いします――と。

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