第16話

「礼竜の体質は、遺伝病だ」

 ファムータルが作った菓子は全て彼女に渡し、自分は普通の菓子を齧りながら祖父が言う。

「エルベット王室は代々、強い魔力を求めて近親婚を繰り返してきた。

 ……他国の王家もそうだがな」


 王族の魔力は特殊だ。

 極めて強大で、使い方を誤れば大惨事を引き起こす。


 だが、為政者がきちんと使えば、それは国や民を守る大事な力となる。

 故に王族は国王や神殿に管理され、無闇に魔力を使わないよう教育されるのである。


 ファムータルの祖父は、またロケットを取り出して写絵を映す。

「あ――その絵は……」

 彼女はすぐに気が付いた。

 昨夜、ファムータルの魔力を少し付与されてから見た、ファムータルの部屋に大事そうに飾られていた絵と同じだ。


 やけに存在感のある絵だと、記憶に強く残っていたのだ。


「礼竜の部屋にあったのを覚えていてくれたか……。

 これはエリシアの一番のお気に入りだった」


 よく見えるように彼女の前に持ってきて、

「何か気が付かないか?」


 思いついたのは、昨夜見たファムータルの姿。

 それをエリシアの写絵と重ね――

「ファムータル殿下は、エリシア様によく似ていらっしゃるのですね」

 姉と弟と言われても違和感のない二人に言う。


「確かにそうだな。

 魔国の形質は、呪われた魔力と赤い目以外子どもには受け継がれない。

 母親そっくりの男児しか産まれないのだ。


 ……他に気づくことは?」


「……あ……」

「大丈夫。言いなさい」


 言ってもいいか戸惑っている様子の彼女に言うと、彼女はぽつぽつと、

「その……ファムータル殿下より……お元気そうです」


 写絵の銀髪の女性は、確かに肌は白いが透けるようではなく、健康さに溢れていた。


「エリシアも色素が薄く苦労したことはあったが……礼竜のようにはならなかった。

 きっと、エリシアは劣性遺伝子よりも強い遺伝子を持っており、それに守られていたのだろう。


 交配の際、遺伝子が2つに割れることは知っているか?」


「はい。掛け合わせるために半分になるのですよね」


 よく知っているなと思いつつ、ファムータルの祖父は頷く。

「エリシアが持っていた劣性遺伝子は、エルベット王室の代々の近親交配で産まれたものだ。


 エルベット王室に前例がある。

 肌は透けるように白く、赤い瞳と唇の、銀のヴェールの髪の王族がな」

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