メア
早河遼
プロローグ
全部、夢の中の出来事だったらいいのに。
後悔も、絶望も、嫉妬心も、劣等感も。
わたしは、全てが憎い。
わたしよりも優れている人間が憎い。
何をやっても上手くいかない自分が憎い。
こんな生きづらい世の中にわたしを生んだ神様が、憎い。
夢はまるで麻薬みたいだ。どんなに辛い悪夢を見ても、目を覚ませばそこで終わる。逆にどんなに幸せに包まれた夢を見ても、目が覚めれば泡のように消えてしまう。そう、夢の中は苦痛も幸運も、全てが平等になる理想郷なのだ。
だから、誰でもいい。
叶うのなら、今見てる景色を全て、夢に変えてほしい。
どんな痛みにも必ず「終わり」が存在する世界に漂って、最終的には……消えて無くなりたい。アイツら諸共、わたしと一緒に––––。
「ええ、ええ、わかりますとも。人は皆そう願います。何故なら〝夢〟は、人にとって最後の拠り所ですからねぇ」
突然、人を小馬鹿にするような甲高い声がかかってきた。その方角に目を向ける。
そこにいたのは、路地裏の入口に佇むスーツ姿の男。獏の被り物をした明らかに怪しい人物が、わたしに向かって手招きしていた。
「さあ、此方にいらっしゃい。さすれば、あなたが今〝一番〟望むものを、手中に収められるかもしれませんよ?」
「一番」の部分をわざとらしく強調して、彼は言った。マスク越しでニヤリと笑っていそうな語調だった。
本来ならこんな誘い、無視して通り過ぎるはずだった。なのに、彼の「一番望むもの」という言葉が頭から離れなくて、思わず立ち止まってしまう。
そして、妙な魅力に吸い寄せられ、気づいた頃にはもう既に路地裏へと足を踏み入れていた。
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