第65話

朝、千尋を家まで送ろうかと思った。だけどそれを父親に見られては、俺を彼氏だと思われて千尋が危なくなるかもしれない。



──……父親が襲ってくるかもしれないから送る方が危険って、ほんと、笑える話だと思う。




「また、何かあったらいつでも連絡して。俺もすぐ見れるようにはするから」



もう雨は上がって、外は晴れだった。

千尋の目を見ながら呟けば、千尋は安心するかのように「……ウミくん……」と、口を開いた。




「本当に危ないって思ったら、警察に行くんだよ?」


「うん…」


「いける? 1人で帰れそう?」


「うん……学校だし。もうあいつも仕事でいないと思うから。本当にごめんね」


「いや、いいよ」


「ウミくんは大丈夫? 家で何かあったんでしょう?」



あった。

あったけど、あれは俺の八つ当たりだから。

ヒカルは何も……悪くない。




「……大丈夫、──…ただ俺が、子供なだけだから」


「子供?」


「我慢も必要だよなって話」


「…子供なんて、我慢ばっかりだよ」


「……」


「ずっと大人のいいなり。大人って、いつから大人になるんだろうね? 私も早く大人になって家出たい……」



いつから大人?




「分かんないけど、一般論として成人になるかならないか。ってか、子供に戻りたいって思ったら、大人じゃない?」


「子供に戻りたい?」


「俺は一生、思わない気持ちだけど」


「なにそれ、だったらウミくんは一生子供のままってことだよ?」



クスクスと笑う千尋。




「そうだよ、子供だからヒカルと喧嘩ちゃうんだろうな……」

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