第53話

奈都は黙ったままで。


分かってる。


また俺の言葉が奈都を傷つけたことぐらい。


ヒカルにも言われたから。


でも本当に、ルイは人を殺すかもしれないのに…。



「……ウミくん、あのね」


「……」


「別れることはできない…。ルイくんを待つって決めたから。ルイくんを裏切る訳にはいかないから」


「奈都さん、」


「もし、別れ話になっても、それはルイくんが退院したあとだよ」


「……」


「ごめんね……」



悲しそうに笑う奈都。

そんな顔をさせたいわけじゃないのに……。




「慰め……になるかは分からないけど、私はウミくんって名前好きだよ」



え……?



「……どこが?」


「どこがってよりも、名前似てるから、親近感が湧くって言うのかな?」


「親近感?」



誰と?



「うん、ほら、海と言えば夏って感じじゃない?」


「──…」


「夏と言えば海とか」


「……」


「ね? 仲良い人と名前が似てると、ちょっと嬉しくならない?」




ルイのことで酷いことを言ったばかりなのに、すぐに何も無かったかのように笑顔を向ける大人の奈都から、目が離せず。



奈都は俺と、仲良いと思ってくれているらしい。



見る立場を変えれば……。



言われてみれば、そうかもしれなくて。



「……そうかな」



少し、笑いぎみに呟けば、奈都は穏やかに笑った。



「うん、少しでも良いように考えよ。プラス思考って言うのかな? ヒカルの良いところ、ウミくんが沢山知ってるみたいに。見つけていこう?」



良いように……?



「大丈夫だよ、ウミくんは1人じゃないから」



1人じゃない……。


俺に向かって微笑む奈都から、目を逸らせない。


ずっと笑う奈都を見ていたい……。



1人じゃないってことは、これからもヒカルや、奈都がそばにいてくれるってことで……。

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