第3話
Re:女子大生二日目 後半
スーパーで肉じゃがの買い物をして、私は教えてもらった富田くんの下宿先アパートに着いた。今はグーグルで地図を調べて、ナビで行けるけれど、それはもちろん使えなくて、ちょっと困った。でも富田くんが下で待っててくれて、すぐに分かった。
不便だけど、ちょっとあったかい気持ちになる。
「本当にいいの? ごめんね」
「うん。簡単なものだから。肉じゃが、たくさん作るね。で、飽きたら、水足して、カレールーを入れたらカレーになるから」と私はカレールーも買って来た。
素晴らしい主婦力がみせられる。
「あ…お米…ないんだ」
「え?」と私は慌てる。
「お米って高いよね」
「あ、じゃあ、安い食パンとか…パスタをご飯がわりにして食べたらいいよ。ショートパスタだと小さなお鍋でも茹でられるし」と言うと、富田くんは驚いたような顔をする。
「すごいね…。料理好きなの?」
「全然。大嫌い」と言って、私は笑った。
好きで料理ができる人は憧れだ、と思っている。
玄関に小さな台所スペースがついている。一口電気コンロの小さなキッチンで時間をかけながら肉じゃがを作る。私は富田くんと話したかった。一体、どうやって彼がここに来たのか。私とは違って、記憶がないのかもしれないし、あまり下手なことはいきなりは聞けない。
「…富田くん、下宿ってことは…どこから来たの?」と聞いてみる。
「あぁ、関西から…」
「え? そうなの?」
確か富田くんは実家暮らしだった気がしたけど…。お母さんが亡くなったと言うことはお父さんと二人暮らしだったのだろうか? と富田くんとは家の話をあまりしてこなかったから、詳しくは知らないけれど、関西弁も聞いたことなかった。
「あ、だから…喋る時、緊張してたの?」
「え? 分かる?」
「うん。ちょっと違うなぁって思ってた」と私が言うと、富田くんは照れたように笑う。
「関西弁って怖いって思われそうで」
「そう? いいよ。別に、私は」
そうもう私は半世紀生きようをしているおばちゃんなのだから…。そんなことは少しも気にならない。
しかし今、話した内容を整理すると…、目の前の富田くんは私のバイト先の富田くんと見た目は同じだが、少し違う。思わず顔をじっと見てしまって、恥ずかしそうに目を逸らされた。
時空の歪みで、ちょっと設定が違うのかな? と眉間に皺を寄せたから「な…何か?」と言われる。
「もー、そんなこと言わんでええから」とエセっぽい関西弁を言ってみる。
「あー」とがっかりした顔になった。
「なんで、そんなイントネーションになるんやろ」と富田くんが素晴らしく流暢な関西弁で喋る。
「えー」と思わず私は目を大きくした。
「関西弁…難しいん?」
不思議だけど、なんて言うか、その人の地方の言葉を聞くと、すごくその人の素に触れる気がした。
「私も習得したいです。師匠」と言って、頭を下げたら、笑われた。
そして肉じゃがは美味しくできたので、私はお暇することにした。
「また肉じゃががなくなったら、遊びに来させて」と言って、私が言うと、富田くんは駅まで送ってくれた。
自転車を押しながら、駅までの時間歩く。本当に三十年前だったら、恋が始まる予感がするはずなのに…とひっそり笑う。帰り道のスーパーに入って、私はショートパスタを三袋と食パンを買って、プレゼントした。
「え? いいの」
「これで生きていけるから」と食材を渡しながら笑う。
「おかん…みたい」と強引に渡される食材を受け取りながら言った。
「あはは。そう…だったりして」と言うと、お互い違う理由で切なくなる。
一番星が見える夕方。私は不思議な世界で、理想の息子と時間を過ごした。
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