第88話

「椿」


「ん」


用はないが、何となく奴の名前を呼んでみるも

奴も奴で髪を結うのに真剣なのかその声のトーンはいつもよりか優しく穏やかに。



「別に」


「別になのかよ」


大人しく私も前を向き、されるがままとなる。


少し体温の低い、椿の指が私の髪を梳き、そして偶に首元に触れる。



色素の薄いミルクティー色の髪が、アップに纏められた。



「ん、いーじゃねぇか」


後ろから両手を私の肩に置く。


椿の声と一緒に漏れるその吐息が耳元近くに当たって擽ったい。



椿の世話好きも本当らしい。


そして、女の髪を結えるのだから器用なのかもしれない。

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