第72話

「ひなちゃん、その姿で女に抱きつくのは今はやめなさい、ほれ一旦離れなさい」


チッチと、犬を呼ぶようにして陽向を扱う亜貴と、それさえ気づかない陽向。


亜貴にそう言われた理由もよく分かってなさそうなキョトンとした表情だな。



亜貴が言いたいこともわかる。


顔の外見は幼く見える陽向だが、華奢なその体も上半身だけ脱いだ今しっかりと男だ。程よくついた筋肉も、不良が故に喧嘩で鍛え上げられているだろう。



こんな状態で抱きつかれていたら公然わいせつ罪で訴えられるか、周りからの敵意むき出しの女の痛い視線を私が受けるかの2択になる。


それは非常に避けたい。


「りなちゃん水着になっておいで〜、戻ってきたら一緒にかき氷食べよ」


陽向はふにゃりと、笑う。


「じゃあ俺も着替えてくるか〜あちぃーし」


吸い終わったらしい煙草を砂へ落とせば軽く踏み潰す。


ニヤリとその形の良い口元を上げれば、綺麗なその切れ目で私を見て、



「里奈子ちゃん、藍に可愛い水着買ってもらえよ」



そう言い残してどこかへ行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る