第46話

「なに。なんか用あんの」


「見すぎ、藍のこと」


あれをどう見すぎだと言うのか。


私は掴まれたままの顎に視線をそっと落としながら、不貞腐れたように表情を変える。


「そんな不満だらけな顔する女お前ぐらいだな」


ふわりと香るムスクの匂い。

椿との距離は数センチ。


その事に不満だらけ以外なにがある。


褒め言葉なのか知らないが、どうでもいい私は

「へえ」

と、とりあえず相槌は打っておいた。


その言葉は、いつも女にしてると言ってるようなものだ。


見た目は申し分ないが、椿の中身はど変態極まりないから仕方がない。


「いい加減にして」


パシンと、私の顎を掴んでいたその手を振り払う。


「着くまでに機嫌直しとけよ」


ふぁと眠そうに椿は欠伸を漏らし、目尻に浮かべる涙を拭いながら、私に対して不敵に笑う椿を再度睨みつけた。

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