第94話

勉強しないでテストが出来るほど私は超人ではない。

そんな意味も含めて、

「余裕…ではない」そう返事をする。



「さようか。ほんなら、陽向と一緒に勉強するとよか。陽向もひとりは寂しいじゃき」


「え!りなちゃんも一緒にやるの!」


「やらん」



そんな面倒事はしたくない。


私はソファに座ったまま膝を抱え丸まる。


「里奈子、」


テノールボイスの甘い声と、クセのない爽やかな香水の匂い。


「…なに」


睡魔が襲い掛かっている私は、半分舌の回らない掠れ声で奴に返事をする。


「眠ぃのか」


「んう」


ダメだ、眠過ぎて言葉にできない。


「ベッドに行くか」


私の鼓膜を刺激する藍のテノールボイスは、今の私には睡眠薬と同じぐらいの効果がある。


「…ない、かない」

行かないで、ここでいい。

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