第53話

アタシ達は二人の結婚式に出なかった。



「・・・披露宴そろそろ始まるけど。」



滝川君は壁にもたれて、ベッドサイドの時計を見ていた。


アタシはなんだか気分が悪くなって宿泊する部屋に戻っていた。



原因は、彼だけど。


「滝川君は行ってよ、アタシは披露宴に出ても食欲ないから無理。」



アタシはベッドに横になっていた。

彼に背を向けて。

するとすぐ隣で人の気配を感じる。

彼がベッドに座ると、ギシッて小さく音がした。


アタシの背中を摩る―。


ゆっくり、優しく・・・

心地好かった、手が服越しの背中を滑る感覚がアタシを安心させた。

・・・アタシ、この人の言葉ではない優しさを見つけてしまった気がする。

今までのそんな彼の行動を思いだす。

初めての行為の時・・

再会した時・・蘇生の時、言葉にしないけど、誰かを自然に想う。

アタシは身体を彼に向けた。

滝川君は不思議そうな顔をした、



「アタシをホントに好き?」


「言わなくても。」


アタシはゆっくり起き上がる。



「どうして、あの文化祭の日にアタシとしたの?」



「なぜ今さら、前も言った。」


滝川君はアタシから視線をそらす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る