第5話

前進


 それから五分くらいして、中崎さんに電話がかかった。


「あ、大丈夫です。一緒にいます」と梶先輩に話しているようだった。


 私は電話を貸してもらって「今からコンビニ行って、アイス買って、食べてから戻ります」と言う。


「中崎さん…アイス食べたいので、コンビニに行きましょう。それで申し訳ないんですけど…アイス買ってください。後で払うので」


 携帯も財布も席に置いたままだった。


「それは…いいけど。本当にどうしたの?」


「お金を借りるから…言いますけど。私、吉永さんのこと好きだったんです。だから…」


「あ…あぁ」とそれだけで察してくれた。


 さすが心までイケメン。


「私…魅力ないですかね? 毎日、髪の毛も巻いて、化粧もきっちりして、パックも週一でして…。パクチー植えて」


「? パクチー?」と聞き返したが、無視することにした。


「頑張って、可愛いふんわり女子になりたかったのに…」


「まぁ、違った意味でふんわりしてるというか…」と言われたが、意味がわからないので、これも無視することにした。


 コンビニに入って、アイス棚を眺める。たくさんの種類があるのに、食べたいのが一つもない。ジャンボモナカにした。


「半分こしましょう」と言って、会計をしてもらう。


 袋の上から半分に折って、中崎さんに渡した。シスターズは大人しくしてくれている。なんなら、私の愚痴を聞いて、頷いてくれている。


「努力して、可愛くしても…魅力ない」と言いながらモナカを口に入れる。


「ところでいいの? 二人を二人っきりにして」


「…いいんです。梶先輩が幸せになれるのも嬉しいし。梶先輩が振ろうが、付き合おうが、私に魅力ないって言うことに…変わりありませんから」


 シスターズたちから深いため息が流れ出す。


「そんなことないよ。魅力ってみんな持ってて、後は好き嫌いの好みの違いっていうか…」


 シスターズたちが勢いよく頷く。なるほど、素晴らしい魅力の持ち主だ、と私は納得した。そして素早くモナカを食べ終える。ゴミをコンビニのゴミ箱に捨てると、店を出て、両手を空に向けた。


「よし、次、行かないと」


「切り替え早いな」


「さっき、居酒屋で『強く生きて』って知らないおじさんに言われたんです」


「知らないおじさん?」


 あのシースルー変態おじさんがどういう訳であそこにいるのか分からないけれど、私は先に進むことにした。よくよく考えてみれば…私は吉永さんに振られたことよりも、努力してきた自分が報われなかったことに落ち込んでいると言うことが分かった。そこまで本気じゃなかったんだろうな、と思うと私は前を向いて、次に備えることに決めた。


「合コンでもアプリでも何でもして、次こそ」と言うと、目を丸くした中崎さんの後ろのシスターズが歓声を上げてくれる。


「ありがとー」と思わず叫んでしまう。


「誰に言ってるの?」


「あ…中崎さん…(とその仲間たち)」と誤魔化しておいた。


 その日から、私は少しだけ中崎さんと仲良くなり、そしてシスターズとはちょっと分かり合えた気がする。

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