第51話
「…教室に……忘れ物して、取りに戻ってきたんです」
本当は、部室に、だけど。
言わなかった。
言えなかった。
先輩だって見られたくなかっただろうから。
「教室に忘れ物?──」
先輩が校舎へ振り返る。眉を潜めたのがわかった。
もうすっかり暗くなってしまってひっそりとしている校舎。
わたしは慌てて唯一煌々と光を放つ部屋を指差し、付け加えた。
「しょ、職員室にいた先生に頼んで教室までついてきてもらったんですっ」と。
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