最弱な僕は最強になりたい〜世界最強は自分が最強だってことに気づいてない〜
ほのお
第1話 絶対に抜けさせない
「あの……リーダー」
「ん? どうしたんだミナミ」
「少しばかりお時間いただくことできますかね」
◇◇◇
ここはSSSランクパーティーである『炎翼』が持つ、大豪邸。
炎翼のパーティーメンバーは男一人、女五人の計六人で構成されている。
庭ではパーティーメンバーの女子四人が模擬戦をしている。
そんな中、このパーティー最弱の男、ミナミとパーティー最強のリーダー、カイがリーダー室で対面に座っていた。
「んで、話ってなんだよ? つまらなかったら出ていくからな」
「単刀直入に言いますね」
「おう」
「僕は今日を持って、このパーティーから抜けさせてもらいます」
ミナミがそう言い終わると同時に、カイがガタンッ! と勢いよく立ち上がった。
カイはものすごい汗が吹き出ており、信じられないという顔をしていた。
「りっ、理由を聞いてもいいか?」
「はい。理由は僕が弱すぎるからです」
「よっ、よわっ?」
またもやカイは信じられないという顔をした。
それをよそに、ミナミは話を続ける。
「最弱の僕がいると、炎翼の印象が悪くなり、バランスも崩れると思ったんです」
「えっ、えっと……」
「だから僕はこのパーティーから抜けます」
「ちょちょっ!」
「もとから不思議だったんだ。最弱の僕をSSSランクのパーティーが拾うなんて……」
そう淡々と自虐をするミナミにカイはとてつもなく混乱していた。
それはそうだ。急に『パーティーを抜ける』とパーティー最強が言うんだから。
「その話……本当?」
声がした方をミナミとカイが素早く見ると、リーダー室の扉が開かれ、そこには模擬戦を終えたでろう、副リーダーのミリが汗を垂らしながら立っていたのだ。
「本当だよ。僕はこのパーティーから抜ける」
ミナミは表情を変えず、迷いもなくそう告げた。
ミリはその場に膝からペタンッと崩れ落ちた。体重を支えている腕がブルブルと震えている。
「そんな……嘘でしょ……」
「嘘じゃないよ」
「なんで? どうして抜けるの?」
「僕が弱すぎるからだよ」
「えっ?」
ミリが聞き間違えたのかと思っていると、後ろから勢いよく何かが飛び出してきた。
その何かはそのままミナミに抱きついた。
「ミナミ……抜けないでよ!」
「エル……そうはいかないよ」
ミナミに勢いよく抱きついたのは、尻尾とケモミミの生えた獣人のエルリーナだった。ミナミは炎翼でも一番背が低いため、エルリーナに抱き潰されている。
「抜けるなんて……あのバカが聞いたらどうなるかわかってるの?」
「……それでも僕は抜けるよ」
すると突然、リーダー室の扉が破壊され、尖った耳を持つ女の子が入ってきた。
いつもなら注意をするカイも、今はそれどころではないのか気づいていない。
「ミナミが……抜ける……?」
煙の中から出てきたのは、エルフであるミナだった。
ミナは炎翼随一の問題児で、常日頃、破壊衝動に駆られている。
「そうだよ」
「そんなことさせないよ? どうして抜けるの? 僕たちが嫌になった?」
危険を察知したエルリーナが素早く横に跳んだ。
それのすぐ後から、ミナミの頭を目掛けて投げナイフが飛んできた。
ミナミは飛んできたナイフを首を少し傾げただけで避けた。
「ミナミはこのパーティーに必要……抜けるなんて許されない」
ナイフを飛ばしたのはミナだった。
ミナは炎翼のNo.4で、単体で
「この緊急事態に何呆けてるのよカイ」
戦闘態勢のミナを片手で抑え込んで、ミナミのすぐ近くまで歩いてきたのは赤い瞳と銀色の髪を持ち、腰に刀を差しているロロラだった。
「ロロラ……」
「ミナミ……どうして抜けようと思ったの?」
「僕が……弱すぎるからだよ」
「……何を言っているの?」
ロロラまでもが意味がわからないという顔をしてしまった。
すると、今まで呆けていたカイが目を覚ましたかのように動き出した。
「ミナミ、悪いがそれは受理できない」
「どうしてですか」
「このパーティーみんながそれを望んでいないからだ」
「それは関係ありません」
「いや、関係あるね」
「僕はみんなのように強くないし……」
ミナミの顔の目の前にビシッと人差し指が突き出された。
「そこよ! そこが問題!」
「えっ?」
「どうして自分が弱いと思っているの!?」
「どうしてって……」
ミナミは首を傾げる。
するとロロラはため息をついて口を開いた。
「あなたがこのパーティーで一番強いのよ」
「えっ?」
ミナミは信じられない言葉を聞いたかのように聞き返した。
「嘘だろ?」
「嘘じゃないわ。私達全員でミナミに襲いかかったとしても、ミナミには勝てないわ」
ミナミは他のメンバーの顔を見る。
ミリもカイもエルリーナもミナも、全員がうんうんと頷いている。
「(嘘だろ……僕が一番強い……?)」
黙っているミナミの背中をカイが優しく叩いた。
「ミナミ、このパーティーは嫌いか?」
「いやっ! そんなことはありませんよ!」
「なら抜けなくていいだろ」
「でっ、でも……」
「私達から追放されてないんだ。自分から抜けようなんて思うんじゃない」
内心、カイはドッキドキだった。
絶対に抜けさせないという意思と、このまま抜けてしまうんじゃないかという不安があるからだ。
「ミナミがこのパーティーにいたくないんだったら止めないけど……」
『さっきかっこいいこと言ってたのに』とミナミとカイを除く三人がそう思った。
「いたいですよ。でも僕は何も出来ないし……」
「いつも料理作ってるのに?」
「それはやることがないからで……」
「ミナミ……私達が死ぬ物狂いで修行をしているのに君は……」
満場一致で呆れられるミナミだった。
「とにかく! 私達はミナミの脱退を認めない! 以上!」
「えぇ……でも……」
「でもじゃない! これは決定事項だ!」
「だってさーミナミ?」
「ロロラ……」
「もう抜けるとか言わないで、ね!」
エルリーナに押されて、ソファにボスッと倒れるミナミ。
その上にミナが騎乗位で座る。
「抜けるなんてまた言ったら監禁するからね」
「それは勘弁してくれ……」
「僕たちは絶対にミナミを抜けさせないから」
ミナミはパーティーメンバー全員に囲まれながら、未だに頭の中で葛藤しているのだった。
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