電柱

気分の良い夜には、つい歌いたくなるものだ。

ある夜の帰り道、私は一度も赤信号に引っかからなかったので非常に上機嫌であった。

私は小声で「上を向いて歩こう」を歌い出した。なぜ小声なのかというと、私は歌に自信があるわけではなく、誰にも聞かれたくなかったからである。

二番のサビを歌っていたとき、不意に街灯に照らされた人影が見えた。

しまったと思い、歌うのをやめた。

しかし、人影は直立不動である。

おそるおそるその影の主を見ると、ただの電柱であった。

私の密かな楽しみは守られたのである。

すっかり安心して、私は歌をやめさせられた腹いせに電柱を蹴った。

「イテッ」

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かなりの短編 @imotozirou

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