第22話

キッチンの中は驚くほど広かった。設備も充実しており、さすが男子校と言えるだろう。

ただ、圧倒的に足りないものがあった。

「フライパンと鍋が見当たらないんだけど・・・」

これで良く食事作れてたな!!

「あぁ、普段はあの機械で切る工程以外をやるんだが」

「・・・一番大事な機械が壊れたのか!」

キッチン奥には煙は収まったもののプスプスと小さい音がしており、やはり直すには時間がかかりそうだ。先に内部へと入っていた翔は持っていた上着を小さな椅子に乗せ既に始める準備を整えていた。ただ早くご飯食べたいだけだろうけど!

「壊れたのは焼く、煮る、揚げるを主に作られた機械だからな。それはメイン料理用で他にも二つあるだろ?それはメイン以外の料理で使うやつだからな。温める以外の工程は使えない。」

そう翔は壊れた機械の左右に置かれていた機械へ近づき操作し始める。暫くして‶起動しました‶とカードを認証した際に聞いた機械的な声が聞こえ、メイン以外の料理に使われている二つの機械は壊れていないことが分かった。

そこからの行動は早かった。やはり男子校と言うべきかほとんどを聖杯の力で動かす仕組みになっていたため本来あるはずの蛇口は手洗い専用の物しか存在せず、冷蔵庫も機械の奥にあったコンロさえも聖杯の力で動くようになっていた。これ幸いに聖杯で炎を起こし、水を作り出し調理を始めた。

翔は残っている料理の量や温め等補助的な役割をこなし気が付けば一時間近くが経っていた。

受け取りカウンターにはすでに料理は残っておらず、黙々と男達が食事をしている。中には食べ終わったのかカフェテリアを出る者達も出てきている。

翔ちゃんが管理人の分と、部屋に転送する人数分を先にそれぞれの部屋にあらかじめ転送してくれて私達の食事も開いている席へといつの間にか転移しいていたから焦らずに後片付け出来たのは助かったよね・・・

後片付け後、キッチンから席へと移動し周りの美味しいと言う声を聞き一息つく。疲れ切ってる翔ちゃんには周りの声聞こえてないだろうけど…

「お前、料理作るの上手すぎだろ!」

食事中に翔が食い気味に話しかけてきたが、まぁ嫌な気はしないよな。

最後まで残り、全ての後片付けを終えカフェテリアを後にした悠と翔は玄関ホールまで戻り、転移方陣を使い翔の案内で部屋の前までやってきた。

「俺達の部屋がある階は七階だ。最上階だから間違えることもねーだろ」

そう言い、悠が首から下げていた鍵を徐に手に取り、上の鍵部分を時計回りに回す。するとカードが扉と反応しガチャッと音がした。・・・扉消えないんかい!

扉が開いた音がすると翔は強引に鍵を悠の首に掛け直す。

首締りそうになったんですけど…と

「一番初めは俺がやったようにやれよ。次からは鍵持ってるだけで勝手に施錠が切り替わるようになってるからな。」

やや、否、疲れ切った表情を浮かべ流すように説明をする翔を横目に閉まりかけた首をさすりながらドアノブに手を掛け部屋の中へ入る。

「い・い・か。くれぐれも俺の部屋に忍びこもうとするんじゃねーぞ!」

そう言い残しガチャンッと荒々しく扉が閉まり施錠された音が響いた。

凄い音したんだけど扉壊れてないよな・・・あと、なんで部屋に入ろうと思ったことばれたんだ!!と思っていると右の壁からバンッと大きな音がした。翔ちゃんと隣同士なんだ・・・部屋の中見よ

一畳ほどの玄関に靴を置き、部屋へと入る。

玄関直ぐにある扉を開けるとリビング兼寝室だ。正面には本棚と理事長室で理事長が座っていたような机があり、椅子は背もたれと肘置きが赤色となっている。机右隣にはすぐ右には小さな縦長の箱が置かれている。

そのまま右へ歩いて行くと正面の壁際に大きなベッドがありベッド近くにはガラスでできた小さな机と座椅子がある。扉を開けて直ぐ壁沿いには大きなクローゼットが備え付けられていた。

左を向くと壁がくりぬかれた様な形式の空間奥に簡易的なキッチンと冷蔵庫。キッチンを正面にし右側は脱衣所兼お風呂場となっており脱衣場に洗濯機が置いてある。左側はトイレとなっている。

洗濯機とか冷蔵庫とかキッチンとか、機械系には全部方陣が施してあったから聖杯使えないとここで暮らせないんだろうな・・・と思いつつクローゼットを開ける。

「・・・・閉めちゃったよ」

クローゼットの中には夥しいほどの箱箱箱。気持ち悪くなるくらいに綺麗に整頓されて積み上がってた。見間違えだよね・・・と、再びクローゼットを開けると

「見間違えじゃなかったわ・・・これ片づけるのかよ!」

深く溜息を付くと素早く聖杯を使い中身を全て取り出した。

取り出していて分かったことは、ほとんど全て女子校の寮で使っていた物だったということだ。あらかじめ備え付けられていたボックス等に入れてしまえば箱の数よりも中身が思いのほか少なかったこともあり30分も経たずに全て片づけ終える。でも、まだ一つ問題が残ってるんだよね・・・

クローゼットを閉めベッドの上に座りガラス机の近くに置かれた三つの箱を眺める。

「これなんだろう・・・怪しすぎる」

三つだけあからさまに他の箱と違う作りが違うから龍に聞こうと思ったんだけど…

机が置かれているすぐ右側、窓際付近に置いてある箱がどうやら龍の寝床だったようでスースーと寝息を立てていた。片付けの最中に居なくなったと思ったら呑気に寝てるんだよね!!私も寝たいんだけど!・・・危険な物かと思って龍に聞こうと思ってたんだけどなんか違う気がしてきたわ。

恐る恐る三つの箱に触れるとシュウ…と機械音がして自動的に箱が開いた。真っ先に目に入ったのは一枚の文章が書かれた紙だ。

‶この箱は男子校で使うものが入ってるよ♪他の箱は女子校の理事長が送ってきてくれたんだよ。荷物運んだのは僕だけどね!‶

「・・・それ真っ先に私に言えよ!」

なんで事後報告!?運んだ後に絶対いくらでも言う機会あったよね…そもそもいきなりクローゼットの中開けたら箱が詰まってるとか驚くから!

「はぁぁ・・・なんかさらに疲れた気がするわ」

理事長からの手紙をガラス机に置き、三つの箱全ての中身を取り出す。箱の中身は神に書いてあった通り教科書など明日から必要になる物だ。・・・そう言えば明日の授業の事とか何も聞いてないわ。

「・・・全部入れとくか」

箱の中に入っていた黒色の3WAYバッグを取り出す。通常のリュックとは違い四角形の形をしているそれはクラシックなデザイン性が特徴だ。前側にはベルトが縦に二本あり磁石で止めるようになっている。また、前側中央には男子校の校章が入っているが、制服に付けられたバッチが校章の上に重なるように入っている。金色の校章が良く映えるデザインだ。見た目はコンパクトながら、教科書全てを入れても余裕がある収納力に優れている。また、それとは別にミニショルダーバッグもありそこには財布や寮の鍵と言ったこまごまとした物が入れれるように設計され3WAYバッグにも収まる。

粗方必要と思うものをすべて入れ終え鞄を閉じ理事長室と同じ重厚なデザインの机えの上に龍を起こさぬようにそっと置く。

箱には教科書類の他に制服類がが入っていた。七分袖のシャツが二枚に同じデザインの長袖、半そでのシャツが二枚。他にもワンピース型の制服やリボン等がたくさん入っていいたが、一つだけ違う制服が用意されていた。黒のワイシャツに黒のネクタイ。白色のブレザーの左胸に校章が入り、白がベースの黒のチェック柄の裾に黒のレースが付いたスカートがあり、靴もヒールの付いたロンファーと今着ている物よりははるかにデザインがシンプルだ。

また、室内用の靴も鞄に入っているが、外用とさして変わらないデザインだ。

気持悪いことに・・・驚くほどサイズがぴったりだったんだよね。合い過ぎて怖かったから直ぐに脱いで一緒に入っていた白の袋に入れて鞄に詰め込んだけど

怪しさ満点の箱の中に入ってた制服類は全部かけて置いたけど

「なにこの大量の紙の束…」

学校の規則とかが書いてあるみたいだけど・・・読む気にならない!あのチャラ男が持ってたのと同じカードが手帳と一緒に入ってたけどそれは胸ポケットに入れてうっかり紙は燃やしちゃった!!

「お風呂…入ろう」

着替えを持つとお風呂場へと向かった。

お風呂から上がり、タオルは洗濯機の中に放り投げ熱風を作り出しさっさと髪の毛を乾かすとベッドへダイブした。

ベッドの中に入り、今日の出来事をなんとなく振り返る。

なぜかいつにもまして増えた悪魔と戦って久しぶりに聖杯使ったら男子校の奴らにバレた挙句の果てにそのまま意識を失って倒れた。・・・間抜けすぎる!とゴロゴロとのたうち回る。

気が付いたら男子校の休憩室で寝かされてるし、また悪魔は来るし・・・まぁ翔ちゃんと再会できたのはいいことだよな、うん。なぜか編入させられるは悪魔の囮になるわ四従士と龍召喚するわルシーが来るわ魔王と話するわでとにかく大変だった。

けど・・・今一番問題なのは

「ジーン・・・」

ジーンは私を恨んでいる・・・きっとこれからも私の命を狙いに来る。だって、きっともうジーンは目覚めてるんだから

・・・はぁ。なんか考えてたら頭痛くなってきたわ。

数回瞬きをして天井を見た後静かに目を閉じる。四従士は何処に行ったのか分からないし…って私なんか巻き込まれ過ぎじゃ?

「・・・完全に巻きこまれたんじゃ」

なんか気づきたくないことに気付いた気がする・・・寝る!私はもう寝る!

龍の寝息と共に、悠の意識も遠のいていく


『わたしの存在忘れているみたいね・・・』


直前に聞こえた声を考える前に、悠は眠りに落ちた

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