第2話
木々が揺れる音が小さく部屋の中に響く。ああ、可笑しい可笑しいな。確かに風で木々が揺れる音はしているのに…
『聖杯の歴史』と表紙に書かれた教科書にしては分厚いそれにはじまりと書かれたページに綴られている堅苦しい文章読む声を聞きながらも私の視線は窓の外にくぎ付けだ。…それに気づいていないのか読み終えたその人はそのまま言葉を続ける。
「labyrinthが設立した、通称男子校と呼ばれている姉妹校がここ、女子高です。」
その人は窓の外に見える少し遠い建物に視線を移すと指をさす。
「窓の先に見えるあの建物は教科書に出てきた男子校です。皆さん今年も交流があったかと思いますが…」
・・・ああ、可笑しいな。本当に可笑しい。笑いが出てくるほど可笑しい。今日は、朝から雲一つない晴天で今の季節には珍しい心地よい風が吹いていたはず。
そう、空は確かに晴れていた。先生。さっきから悪魔が窓に張り付いてて何も見えない!!むしろ全て真っ黒で潔いわ!
「乃宮!!」
外の景色にくぎ付けになっていると私を呼ぶ声が聞こえた。窓から視線を外して恐る恐る教卓を見ると先生が腕を組んでいるのが映る。
しかも目が釣り上がってる。
いつも目が吊り上がってる気もするけど。
そしてこの光景もいつもの事だけど今日はあれだね。怒ってる。完全に睨んで怒ってる!そろそろ怒られる気がしてた!
「いい加減人の話を、聞きなさい!」
先生は手に持っていた教科書を投げた。軽く体を傾けてそれを避ける。
…って教科書!?なんで教科書選んだんだよ!教科書投げるって教師としてどうなんだ!!
せめて右手に持ってるチョークを投げて!チョーク投げるのもどうかと思うけどな!
先生が投げた教科書は私が避けたことによってすぐ傍にある窓ガラスに激突した。
私の席窓側だから…気付いた時には遅く、パリンと音が響く。あ、割れた。・・・割れた!?
分厚い教科書は悪魔用超防弾窓ガラスを突き破り周りには破片が飛び散る。小さな悲鳴が幾つか上がっていたが、私はそれ何処ではなかった。
悪魔と目があったというか…合ってしまった、合ってしまったよ!!
大事な事だから二回言ってみたぜ!なんて、なんで悪魔用超防弾窓ガラスが他よりも多少分厚い教科書を投げただけで割れる訳!?悪魔用超防弾ガラスの意味ないから!!
机や椅子が倒れ小さな悲鳴が幾つか上がった直後機械音が鳴り響き隣の教室からも音が鳴り響く。
音の正体は『悪魔感知機械』と呼ばれる機械だ。悪魔感知機械は色々な部品と呼ばれる物を組み合わせて作られている。
室内用、学校用と様々な用途に合わせ開発されたそれは音のトーンによって危険度が分かるようになっており1~7段階に音を識別することが出来る。
悪魔が近くにいれば自ずと音の段階が上がっていく。
今の段階は7。最大ですねありがとう!!なんせ悪魔のせいで教室真っ黒だし。密集度半端ない!!まぁ、その悪魔全部私の周りに密集している訳だけど。
そのお陰で悪魔による人の被害は最小限なんだけど、なんかエサになった気分だよ!実際そうなんだけども!!
私の周りにいたクラスメイトたちは窓が割れた瞬間あっという間に居なくなってたし。その時は視界は黒で塗りつぶされているから音と気配で感知しただけだけど。
それに、今も悲鳴が聞こえるけど教室の中からは聞こえない。
…悪魔を見えている人は、誰もいないけど。あ、ここに居るわ。座ったまま微動だにしないのが、一人。
立ち上がり、黒に覆われた視界の隙間から見ても誰もいないことが分かる。
…このまま放置してしていれば悪魔は勝手にいなくなる。だけど、流石にこれは見逃せない。今すぐ逃げるって方法もあるけどそもそも逃げる理由はどこにもない。
「・・・聖杯召喚!」
黒で覆いつくされていた視界は悪魔の悲鳴に似た声と共に体は光に包まれた。
胸元がより一層光り輝きcardの形をした空間が一瞬でダイヤの様な形へと変わり服の上に現れる。それに手を近づければ空間から柄が現れぎゅっと握り素早く抜き出せばレイピアに似た細身の刀身に複雑な装飾が付いた柄が一瞬光り、弾ける。
強制的に剥がれた悪魔はお互いを吸収し始めやがて一つの集合体になり襲い掛かる。一振り下ろせば悪魔の集合体はバラバラになり最初見た様な小さな黒い塊となって再び襲い掛かる。所々血が滲み痛々しい姿のままそれを構えた。
男のみが扱え条件が重なり合い特別な、特別な者だけが手にできる奇跡にも近い力。ー聖杯
「さて、始めますか?」
長い黒髪に、セーラー服をまとったその者はやがて宿命を世界を背負い戦うことになる、はず…。
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