禁断の愛~貞操への誓い~

第6話

りおんは夫と幸せな結婚生活を送っていた。

夫は出世欲があり、承認欲求が強い方だった。

会社の中でも、テレビに出演したり、メディアを任されていた。

しかし、彼は35歳になるころには、野心とは裏腹に、

会社の中での自分の限界を身にわかってきていた。


努力をしても、能力や人脈などがある上層部役員などには

なれやしない。

りおんは努力しても報われなず疲弊していく彼をいたたまれない気持ちで

献身的にサポートしていた。


ある日、りおんは、社内パーティーに招かれた。

夫が席を外していると、新しく新任の夫の上司が話しかけてきた。

背格好も良く、顔立ちを整えたモデルのような男だった。

ホストクラブにいてもおかしくはない。

スーツも靴も時計も上等なものを身に着けている。

野心とプライドのたかさを感じさせる男だった。


そこで、特別な提案を持ち出された。

「きみの協力があれば、昇進の道が開けるかもしれない」

りおんは頭のキレる女性だったため、

バックの中には、一束、百万円の小包を、きれいな布に包んで持ってきていた。

そして、彼の胸ポケットに、こっそり入れた。

もちろん、夫はそんなことは知らない。

りおんを無垢なお嬢さんと結婚したと思っている。

「これで、どうか。」

しかし、上司の狙いはそんな小金ではなかったのだ。

「私が一筆かけば、きみの夫を昇進させることができる。

上層部にも、もちろん推してあげよう。」

「嬉しいお言葉、ありがとうございます。」

「しかし、彼が昇進したら、私を裏切るかもしれない。

だから、彼の一番大事なモノを担保にしたいんだよ。」

「そ、それは・・・。」

「彼は野心家なのは、十分わかっている。

世の中は、なにかを犠牲にしないといけないときがある。

そして、両方は選べないんだよ。」

夫の上司はするするとりおんの体を触り、腰に手を当て体を密着し寄せた。

「!!」

りおんは複雑な感情に悩まされた。

夫の成功は家庭にとっても彼にとっても大切だ。

その代償として、自らの体を差し出すことはできるだろうか。

「ご提案ありがとうございます、少し、時間をくださいませんか?」

「・・・いいだろう、ゆっくりと考えたまえ。」

上司はゆっくりと、りおんから手を離した。

りおんの夫は野心家だが、人を信用しやすい子犬みたいな男だった。

誰でも信用してしまうし、好意的に見ていた。

そこが、りおんは好きだった。

しかし、世の中みんなすべての人が、おしとよしというわけでもない。

彼を疎ましく思う人物もいる。

そして、夫の上司は、新しく他部署から新任された実績ある人物だった。

悪くはない男だが、夫と比べると純粋さもなく誠実みもない男で劣る。



りおんは悩んだ。

自分の価値観と、夫への忠誠心、会社の必要性。

そして、りおんは、夫へ告げるかどうかも考えた。


約束の日、りおんは夫の上司からディナーへ招かれた。

「それで、返事は、どうなんだね?悪い話ではないだろう。」

りおんは答えた。

「・・・私は、夫に誠実でいることを選びます。」

自己尊重と道徳的価値を守る決断をしたのだ。

「・・・そうかね、きみの返事はわかった。彼にはそれ相応の役割を与えよう。」

りおんは、念のため、カバンの中にボイスレコーダーを忍ばせておいたが、

徹底的な証拠の言葉は録音できなかった。


りおんは思った。

夫の成功は大切だけれど、自分の尊厳も同じくらい大切だということ。


夫は昇進が実現するどころか

地方の他部署へ転勤され、退職へ追い込まれた。

やはり予想していた通り、夫の上司の社内政治は見事なモノだった。

夫は邪魔ものとして省かれ、業績でも負けたのである。


りおんは、夫に会社を去ることを提案し、

夫は理由は聞かず、新たな道を歩み始めた。


ふたりの家庭は愛情深く、

りおんの夫は会社を新しく立ち上げて、

未来への一歩へと踏み出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る