君のこと 10

第55話

「勝手に担当外れるとか止めてくれない?焦るよ。」


「……ごめんなさい。」


私は定時で会社を出ると千秋君の事務所に来ていた。

彼に呼び出された訳ではなく打ち合わせだった。

千秋君は昼間のスーツ姿から上着もネクタイも外してブルーがかったシャツを着たまま設計図の前にいた。


「久しぶりにスーツなんて着たよ、肩がこる。」

ソファには無造作に上着とネクタイが置かれている。

皺になるのに。

だけど私はそれに触れようとはしなかった。

お節介みたいなことはしたくない。



「……この前はごめん。」

「え、」


千秋君が急に謝るから少し困惑する。

彼は設計図を見ながらそう言って私を見ているわけではなかった。


「……私も酔って迷惑かけたから。もう忘れるね。」


そう言うと千秋君は私の方を向いた。

そしてペンを置く。


「本当に忘れることできる?」

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