フリーアの娘〜最高神を宿した村娘が特別部隊に守られて役割を終えるまで〜

晴坂しずか

第1章 フリーアの娘と闇魔法

プロローグ

「では、あらためて予言をお聞かせください。ミス・オード」

 少女へ視線をやるのはそれぞれに軍服を着た四人の男たちだった。あまり余裕のない室内で、黒髪の少女ははっきりと告げる。

「王都から東の方にある、小さな村が見えました。中心には大きな桜の木が立っています」

 四人の中でもっとも年若く、まだ少年期にある一人が小さく首をかしげてまばたきをする。

「顔までははっきりしませんが、その村にいる一人の女性……年は私より数歳上でしょうか。明るい茶髪の彼女の身に、危機が訪れようとしています」

「なるほど。これだけ情報があれば、一週間もあれば特定できそうですね」

 と、白髪の男が言い、手帳へ書き留めた情報へ目をやる。

 すると少女は言った。

「いえ、もう残された時間はないと思ってください。彼女へ振りかかるのは流行り病だと思われます」

「まさか。そんなものでオレたちが集められたと?」

 と、怪訝な顔をする茶髪の男へ少女は険しい目を向けた。

「死者もたくさん出ている恐ろしいものです。詳しいことまでは分かりませんが、彼女を保護する必要があるのは確かですわ」

「早々に行動を開始した方がよさそうですね」

 と、最も背の高い男が言い、白髪の男はうなずいた。

「ええ、そうですね。流行り病と一言で言っても、闇魔法が関係しているのかもしれません」

 ずっと口を閉ざして考え込んでいた少年は、会話の流れに気づくなりはっとした。

「あっ、あの! ちょっと待ってください」

 視線が彼へと集まり、少年は少女へと目を向ける。

「あの、村というのはもしかして、アルグレーン村ではないでしょうか?」

「さあ、名前までは分かりません。ですが、どうして?」

「俺の育った村なんです。村の中心に広場があって、そこに大きな桜の木が三本、立っていました」

 少女は両目を閉じた。

「――ええ、言われてみれば三本、確かに見えますわ」

「そ、それじゃあ、その女性というのは……緑色の瞳ですか?」

 男たちは怪訝な顔をしながらも、黙って様子を見ていた。

「さすがにそこまでは……ですが、そうかもしれません。彼女と近い年頃の女性は、村にはいないようです」

 少年は重たいため息をついた。

「彼女でちがいない。みんな、他の村や町へ行ってしまったから……」

 と、苦々しい表情で再びため息をついた。

「あなたはその彼女を知っているんですか?」

 と、白髪の男がたずねると、少年はやや自嘲気味にうなずいた。

「ええ、もちろんです。だって彼女は俺の――」

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