10・ここまでの心情〜佳彦〜

第10話

離婚届を渡され華は記入してあって後は俺だけの記入で華は出て行った。


〔佳彦が“好きな人”と結婚出来る様に離婚するのよ!〕

「…チッ。またか…」


いつもここの場面で目が覚める。

何度も何度も夢に見て隣に視線を落とすと当たり前だがシーツは冷たい。


「華……」


隣で無防備に眠っていた愛おしい妻の華が瞼の裏に浮かび上がる。


「何で、俺が上田さんを…って思ってるんだ?」


華の言った『好きな人』…はしかいない。


「提出してない事を知ったら怒りそうだな…」


苦笑いして離婚届が入ってる引き出しに視線を向ける。

華の私物が残ってる。

俺の大事な心の拠り所だから華が来たら返そうと思っている。

それまでは、俺の物。


「……」


あの日いつもより早く出社したから食堂に行くと華と上田さんが居て俺の話をしていた。


「残念でしたー。私の旦那様・・・ですー」


上田さんに言った言葉が嬉しすぎて顔が赤くなって喋れなくなった。

その後に、悟と親しげにしてるから華は悟が好きだから俺と離婚したいのか?と思って問い詰めた。


〔元夫に話す必要なんかありません〕


元夫・・と言われて頭が真っ白になりつい言ってしまった。


〔元妻にこれ以上言及するつもりはないよ〕


本当は未練ありすぎて抱き枕を買って抱きしめて眠ってるなんてそんな事知られたくねぇーと焦る。


「……」


華と二人・・で久しぶりに入る珈琲店にウキウキしていたら吐き気がすると言ってトイレに駆けむ華。


よしくん。あれ悪阻つわりじゃないかな〜?」

「悪阻?!」


店主マスターに言われて頭の中パニクった。


「でも、華ちゃんを追い詰めたらダメだからね」

「悪阻なら、赤ん坊だし…」

「でも、ダメだよ。支えて黙ってるのも男だ」


それなら、としてとして…

いや、華は離婚届提出してると思ってるから元夫・・として支えよう。


「佳彦、最近どう?」

野々・・、別に」


野々も悟も俺の大学時代からの友人で今は同期。華に負担をかけさせない為グループに入れた。



「親睦会やりましょう」


野々が提案し決まった親睦会。

悪阻がある華には出て欲しくないのが本音だが

ソレを言えない。


「出るなら俺の隣が必須条件だ!」


華を守りたい。

それで側にいられるなら使わせてもらう。

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